執筆・監修:中川 祐 / 辻堂脳神経・脊椎クリニック院長:【脳神経外科 / ヘルスケアライター等】
片頭痛の治療は、この数年で選択肢が広がってきました。長く続く頭痛を「我慢する」のではなく、「発作を抑え、回数を減らしていく」という考え方が一般的になりつつあります。その一つがゲパント(gepant)と呼ばれる新しい飲み薬です。
日本でも、2025年12月にリメゲパント(商品名・ナルティーク®)が、2026年4月にアトゲパント(商品名・アクイプタ®)が発売されました。当院でも頭痛の患者さんを多く診療しています。今回は、最近発表された大規模な副作用報告の解析研究をもとに、このお薬についてできるだけ中立的にご紹介します。
片頭痛の新薬「ゲパント」
副作用と注意点
最新研究からやさしく解説します
辻堂脳神経・脊椎クリニック|院長コラム
この記事でわかること
- 片頭痛の新しい飲み薬「ゲパント」が従来のトリプタンと何が違うのか
- 日本で使えるゲパント(ナルティーク®・アクイプタ®)の特徴
- 最新の副作用報告データ(FAERS解析)から「報告されている」副作用の傾向
- こうした報告データを読むときの注意点(数字の正しい受け取り方)
- 妊娠を考えている方・持病のある方が気をつけたいこと

これらはいずれも医師の診察・処方が必要な処方箋医薬品です。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
ゲパントとは:トリプタンとは違う仕組みのお薬
片頭痛の発作には、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が関わっていることがわかっています。発作のときには三叉神経の末端からCGRPが放出され、血管が広がり、痛みのシグナルが強まると考えられています。ゲパントは、このCGRPが受け取り口(受容体)に結びつくのをブロックすることで作用します。従来の急性期治療薬であるトリプタンが血管を収縮させて効くのに対し、ゲパントは血管を縮める作用を主たる仕組みとしていない点が、作用の上での違いです。

どちらが優れているという話ではなく、 「効き方の仕組みが違う」とご理解ください。どのお薬が適しているかは、症状・頻度・持病などをふまえて医師が判断します。

世界のゲパントと、日本で使えるもの
世界では現在、4種類のゲパントが知られています。このうち日本で承認・発売されているのは、リメ
ゲパント(ナルティーク®)とアトゲパント(アクイプタ®)の2種類です。
リメゲパント(ナルティーク®)
急性期治療と予防治療の両方で使用可能/日本で発売中
アトゲパント(アクイプタ®)
予防治療で使用可能/日本で発売中
ウブロゲパント
海外で急性期治療に使用/日本では未承認(使用できません)
ザベゲパント(点鼻薬)
海外で急性期治療に使用/日本では未承認(使用できません)

ウブロゲパント・ザベゲパントは本記事執筆時点で国内未承認であり、日本での有効性・安全性は確立していません。本記事は海外データの紹介であり、これらの薬剤の使用を勧めるものではありません。

どんな研究をもとにしているのか?
ご紹介するのは、2026年に頭痛の専門誌『Headahe』に掲載された、米国FDA(アメリカ食品医薬品局)の副作用報告データベース「FAERS」を解析した研究です(出典は記事末に記載) 。2020年1月から2025年3月までに集まった副作用報告をもとに、 「ある薬で、ある症状が、ほかの薬より“報告されやすい”傾向がないか」を統計的に調べたものです。
FAERSは「発生率(何人中何人に出るか) 」を示すデータではありません。
医療者や患者さんが自発的に寄せた報告を集めたもので、総処方数という「分母」がありません。そのため、ここで出てくる件数や割合は、あくまで“報告の中での相対的な多さ”であって、服用した方に副作用が起こる確率ではありません。
この研究は、副作用の「手がかり(シグナル) 」を探すための解析であり、薬が原因だと証明したり、頻度を確定したりするものではない、という点を念頭にお読みください。
報告データから見えた副作用の傾向
以下は、上記の解析で「報告として相対的に多かった/目立った」とされた傾向です。発生率ではない点に、あらためてご注意ください。
1. 各薬剤に共通してみられた報告 : 吐き気(悪心)
4剤に共通して報告が目立ったのが吐き気でした。CGRPは胃腸の働きにも関わるとされ、消化器症状が報告されやすいことは、仕組みの面からは説明がつきます。
2. 飲み薬では「お腹」と「神経」に関する報告
経口のゲパントでは、消化器症状(吐き気・便秘など)と、神経系の症状(めまい・眠気など)の報告が中心でした。予防薬のアトゲパントでは、便秘の報告が相対的に目立つ傾向が見みられました。
3. 心臓・血管については「明確なシグナルは検出されなかった」
今回の解析では、心血管系の副作用について報告の偏り(シグナル)は検出されませんでした。ただし、これは「安全である」ことを示すものではありません。発売から日が浅く対象が少ないこと、報告漏れ、さらにもともと心血管リスクのある方(トリプタンが使いにくい方)に処方されやすいといった事情から、シグナルが出にくいだけの可能性があります。
トリプタンは血管を収縮させる作用があるため、狭心症・心筋梗塞の既往、脳血管の病気、コントロール不良の高血圧などがある方には使えないことがあります。ゲパントの作用の仕組みは異なりますが、「だから心配な方にも使える」と単純に結論づけることはできません。お薬を選べるかどうかは、持病や併用薬をふまえて医師が個別に判断します。


なお「副作用の多くは軽度〜中等度」とされることがありますが、これはFAERSではなく臨床試験で示された別の知見であり、上記の報告データの重症度を表すものではありません。感じ方には個人差があります。
「副作用の報告データ」をどう読むか : ここが一番大切です。
FAERSのようなデータベース研究には知っておくべき限界があります。
発生率ではない
分母(総処方数)がないため、「報告が多い=起こりやすい」とは言えません。
因果関係の証明ではない
あくまで「関連の出がかり」です。
報告が少ない=安全ではない
報告されていないだけ、という可能性があります。
報告バイアスがある
新しく注目される薬は副作用が報告されやすい、もともと頭痛が多い人が使うため「頭痛」が副作用のように見える、などの偏りが生じます。
一つの研究の結果
今回は単一のFAERS解析です。エビデンスとしては「仮説を立てる段階」のもので、ほかのデータベースや前向きの研究での検証が必要です。

新しい情報は、冷静に、しかし過度に恐れずに受け止めていただくことが大切です。気になる数字を見かけたときほど、自己判断せず主治医にご相談ください。

妊娠を考えている方・授乳中の方へ
妊娠中・妊娠の可能性がある方・授乳中の方について、ゲパントの安全性は確立していません。CGRPは妊娠の維持に関わる役割を担うと考えられており、慎重に考えるべきテーマです。
報告データの中には妊娠に関する所見も含まれますが、件数が少なく分母も不明なため、これだけで何かを結論づけることはできません(研究の筆者自身も「仮説の段階であり、現時点で臨床判断を変えるものではない」と述べています)。
妊娠・妊活中・授乳中の方は、自己判断で開始・中止せず、必ず処方医や産科の主治医にご相談ください。判断の根拠は、個別の件数ではなく、各お薬の添付文書や学会の指針、そしてあなたの状況に基づきます。
トリプタンが合わなかった方へ : 選択肢の考え方
「市販薬が手放せない」「トリプタンが体に合わない、あるいは持病で使いにくい」「予防薬を試してみたい」。こうしたお悩みがある場合、ゲパントが選択肢の一つになることがあります。
ただし、どの薬が適しているかは、症状・頻度・既往歴・併用薬・生活背景によって変わります。新薬だから優れている、というわけではありません(市販後の長期的なデータはこれから蓄積される段階です)。お一人おひとりに合った治療は、診察のうえで一緒に考えていきます。
よくある質問(FAQ)
- ゲパント(ナルティーク®・アクイプタ®)に重い副作用はありますか?
- 報告データで相対的に多いのは吐き気・便秘・めまい・眠気などで、臨床試験では軽度〜中等度とされることが多い症状です。ただし感じ方には個人差があり、気になる症状があれば医師にご相談ください。
- ナルティークとアクイプタの違いは何ですか?どちらが予防薬ですか?
- リメゲパント(ナルティーク®)は急性期治療と予防治療の両方に、アトゲパント(アクイプタ®)は予防治療に用いられます。どちらが適するかは症状・頻度によって異なります。
- トリプタンが効かない・合わない場合でもゲパントは使えますか?
- 作用の仕組みが異なるため、選択肢になりうる場合があります。ただし適否は持病や併用薬をふまえて医師が判断します。自己判断での切り替えは避けてください。
- 妊娠中・妊娠を希望している場合、ゲパントは飲めますか?
- 安全性は確立していません。自己判断せず、必ず処方医・産科の主治医にご相談ください。
- ゲパントはどんな人にも向いていますか?保険は使えますか?
- 片頭痛の診断のもとで処方される保険適用の薬です(費用は処方内容により異なります)。向き不向きは診察で判断しますので、まずはご相談ください。
当院からのメッセージ
今回の研究を整理すると、現時点でゲパントについて言えることは以下のとおりです。
- 最も多く報告された症状は吐き気で、飲み薬ではお腹・神経に関する報告(便秘・めまい・眠気など)が中心でした。ただしこれらは「発生率」ではありません。
- 心血管系については明確なシグナルが検出されませんでしたが、これは安全性を保証するものではありません。
- 妊娠に関する所見は今後の検証が必要で、妊娠・授乳中の方は必ず主治医に相談してください。
- これは単一の副作用報告解析(仮設段階)であり、今後のデータの蓄積が必要です。

最近、全てのCGRP阻害薬において、市販後調査で高血圧が有害事象として追加されました。そのことから本研究で重篤な心血管系の兆候が認められなかったことは特に重要であると考えます。
片頭痛の薬選びはお一人おひとりの症状・頻度・既往歴・生活背景によって変わります。新薬を含めた治療の選択肢について、主治医にご相談ください。
【参考文献】
Chen H, Li Y. Safety analysis of gepants for migraine treatment: A pharmacovigilance study using the FDA Adverse Event Reporting System (FAERS) database. Headache 2026 Apr; 66:813. DOI: 10.1111/head.70049.
【本記事に関する重要な注意事項】本コラムは、上記の海外論文(米国FAERSデータの解析)をもとに、一般の方向けに解説したものです。記載は執筆時点(2026年6月)の情報に基づきます。お薬の効果・副作用には個人差があり、適応や併用の可否、承認状況は変わることがあります。各お薬の使用は必ず医師の診察・処方のもとで行ってください。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療方針に代わるものではありません。

最後までお読みいただきありがとうございました。あなたの毎日が少しでも健やかでありますように。

辻堂脳神経・脊椎クリニック 院長
中川 祐
なかがわ ゆう
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了医学博士。慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院、済生会宇都宮病院、足利赤十字病院、日野市立病院にて勤務後、辻堂脳神経・脊椎クリニックを開院。 脳神経外科専門医・指導医 脳神経血管内治療専門医

