藤沢市にある辻堂脳神経・脊椎クリニックへようこそ。院長の中川です。
脳卒中とは脳の血管が詰まったり破けたりして、脳に障害を受ける疾患の総称です。脳卒中は現在の日本で「介護が必要になる原因」として多くを占め、また日本人の死因の7.5%を占めています。ここでは脳卒中の症状、原因、後遺障害や予防方法について説明しています。
脳卒中とは
脳卒中とは脳の血管が詰まり血液が流れなくなることで神経細胞が障害される脳梗塞と血管が破けてしまう脳出血、くも膜下出血の総称です。いずれも脳の血管の病気のため神経細胞が障害を受け、突然「意識障害」や「片麻痺」などの症状を呈します。
脳卒中の症状
脳は部位によって担っている機能に違いがあり、全身の動きを司る「運動野」や感覚を司る「感覚野」、言語の機能を担う「言語野」などがあります。脳の場所により担う機能が異なるため「機能局在」と呼ばれます。そのため脳卒中により認める症状は病気が起こる脳の部位により異なります。
片麻痺
脳梗塞や脳出血で出現する脳卒中の代表的な症状です。片側の上肢と下肢に麻痺が発生します。脳卒中の急性期には弛緩性麻痺という力が入らなくなる片麻痺で発症します。重度の場合は全く動かせなくなりますが、軽症の場合は力が入りにくい、お箸がうまく使えない、字が汚くなるなどの症状を認めることもあります。
運動神経は「運動野」にある神経細胞から脊髄まで神経線維が伸びていて、脳梗塞や脳出血によりこれらの神経細胞や神経線維が障害を受けることで片麻痺が起こります。
感覚障害 しびれ
こちらも脳梗塞や脳出血の代表的な症状の1つです。軽症の脳梗塞や脳出血ではしびれといった症状で発症することもありますが、重度になると痛みや温度、触覚などの全感覚が障害を受けます。
歩行障害 めまい
小脳と呼ばれる部位に脳梗塞や脳出血が起こると認められやすい症状です。めまいが出現し、酷い場合には嘔吐を繰り返します。またお酒を飲んで酩酊した方のようにまっすぐ歩けなくなるなどの症状が出ます。
失語 構音障害
失語と構音障害は全く異なる症状ですが、いずれも脳卒中でよく認める症状です。
失語とは言葉が出てこなかったり、聞いたことが理解できないなどの言語が障害される症状です。それに対して構音障害は発語ができて理解も可能ですが、舌が回らずうまく発音できない症状です。
頭痛
脳出血やくも膜下出血でよく認められる代表的な症状の1つです。頭痛は脳卒中以外でも認められますが、特に50歳以降になって発症した頭痛では要注意です。典型的には急に現れる激しい頭痛ですが、それほど強い頭痛ではないこともあります。
意識障害
脳の疾患で起こる代表的な症状の1つであり、脳卒中でもよく認められます。
一般的に意識障害というと「倒れている」、「目を閉じている」といった印象を持たれている方も多いですが、意識障害にも重症度があります。「今日が何日か分からない」、「自分がどこにいるかわからない」、「なんとなくいつもと違って変だ」なども意識障害の一種です。このような症状が認められた場合は、意識障害と考えて医療機関に受診しましょう。
脳卒中ではこれらの症状が単独、もしくは複数重なって現れます。
脳卒中の診断
脳卒中の診断は問診、神経診察、画像検査を中心として行います。しびれや手足の麻痺などは脳卒中以外に頸椎や腰椎の疾患でも起こる可能性があります。どんなに優れた画像検査でも検査する部位が間違っていれば、意味のないものとなってしまいます。また全身を検査するということも患者様の時間やコストの観点からお勧めされません。そのため問診と神経診察を行い、必要な画像検査を選択し、画像検査の結果により診断が確定されます。
当院ではCT/MRIを完備しており、当日に検査結果をお伝えできます。
脳卒中の原因
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血と脳卒中のタイプにより原因は異なります。
脳梗塞
脳梗塞にはアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞という3つの代表的な脳梗塞があります。
アテローム血栓性脳梗塞は動脈硬化によりプラーク(アテローム斑)が出来ることで血管が狭窄して起こる脳梗塞です。動脈硬化を引き起こす脂質異常症や喫煙などの生活習慣が原因となる脳梗塞です。
ラクナ梗塞は脳の穿通枝と呼ばれる非常に細い血管が詰まる脳梗塞です。脳梗塞となる範囲が2〜15mmと小さな脳梗塞になります。生活習慣病の中でも特に高血圧と糖尿病が原因となります。
心原性脳塞栓症は心房細動と呼ばれる不整脈を中心とした心疾患により、心臓内に血栓が出来てしまうことで起こる脳梗塞です。心臓内で出来た血栓が心臓の送り出す血液とともに流れ出ていくと、何処かの血管に詰まります。そして脳は心臓から最も多くの血流を受ける臓器であるため、脳梗塞になりやすいのです。
脳出血
脳出血の大半は高血圧性脳内出血と呼ばれる高血圧が原因で起こる脳出血です。高血圧以外にも喫煙や飲酒も脳出血の危険因子です。
脳動脈奇形、硬膜動静脈瘻、海綿状血管腫、もやもや病などという脳の血管の奇形や病気が脳出血の原因となることもあります。
くも膜下出血
くも膜下出血の9割は脳の動脈瘤が破裂することで起こります。また脳の動脈解離でもくも膜下出血を起こすことがあります。動脈解離とは動脈の壁に亀裂が入り、裂けてしまう病気です。裂けて薄くなった壁が破けてしまうとくも膜下出血となります。その他にも脳動脈奇形、硬膜動静脈瘻、もやもや病という病気でも、くも膜下出血を起こすことがあります。
高血圧や喫煙は動脈瘤を破裂させる危険因子ですが、その他の脳卒中と比較するとくも膜下出血では生活習慣による影響が少ないです。逆に考えると生活習慣病などがない若く健康な人でもくも膜下出血が起こることがあります。脳動脈瘤には遺伝性がありますので、ご家族がくも膜下出血なっていたり、脳動脈瘤を指摘されている場合は一度検査を受けることが勧められます。
脳卒中の予防
脳卒中が「介護が必要になる原因」となりやすいのは、神経細胞という再生が難しい細胞に障害が起こり、その結果として記憶や思考などの認知機能や手足の運動といった日常生活において重要な部分に後遺障害が残りやすい病気だからです。そのため病気になる前にしっかりと予防することが最も重要となります。脳卒中の危険因子をしっかりと治療・管理することで脳卒中を予防できることが過去の研究から証明されています。気をつけなければならない危険因子は以下の通りです。
高血圧
高血圧は脳卒中の最大の危険因子です。血圧が上昇するほどに脳卒中発生率は上昇します。特にラクナ梗塞と脳出血を起こしやすくなります。高血圧を治療することは脳卒中予防に極めて有効であることが、これまでの臨床試験で示されています。
糖尿病
多数の研究により糖尿病は脳卒中の主要なリスク因子であることが示されています。脳卒中を予防するために糖尿病に対して食事療法、運動療法、薬物療法を行います。またその他に合併する高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙がある場合は、これらに対しても治療を行うことが重要です。
脂質異常症
高コレステロール血症が脳梗塞の危険因子であることが過去の研究から報告されています。日本人を対象とした研究で、高コレステロール血症は特に動脈硬化との関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症の危険因子であることがわかっています。複数の研究から薬物治療によるコレステロール降下療法が脳卒中発症を抑制できることが示されています。
飲酒
飲酒量が増加するほどに出血性脳卒中(脳出血とくも膜下出血)の発症率も上昇することが報告されています。一方で少量から中等量の飲酒量では脳梗塞の発症率が下がります。ただ飲酒量がさらに増えると脳梗塞の発症率も上昇することが示されています。少量から中等量の飲酒量とはエタノール24gまで、大量の飲酒とはエタノール48g以上とされています。以下の表を参考に、男性ではエタノール20g以下、女性では10g以下とすることが推奨されます。
ビール 250mL | エタノール 10g |
日本酒 80mL | エタノール 10g |
焼酎水割り 50mL | エタノール 10g |
ワイン 100mL | エタノール 10g |
ウイスキーロック 25mL | エタノール 10g |
喫煙
喫煙が脳卒中の危険因子であることが過去の多数の研究から報告されています。副流煙による受動喫煙でも脳卒中の危険因子であることも示されています。脳卒中のリスクは喫煙本数が多いほど大きくなりますが、1日1本の喫煙でも1日20本の喫煙をする場合の半分程度の脳卒中発症リスクがあることが示されており、完全な禁煙が勧められます。
肥満・メタボ
肥満には内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満があります。内臓脂肪の蓄積は腹囲が大きくなるという形で体に現れます。そのため腹囲が「男性で85cm以上」、「女性で90cm以上」がメタボリックシンドロームの診断基準となっています。メタボリックシンドロームの主な特徴である内臓脂肪型の肥満は糖尿病、脂質異常症、高血圧を引き起こし、脳卒中発症の危険因子であることが多数報告されています。
脳卒中の後遺障害
脳卒中により以下のような後遺障害が残存する可能性があります。
- 片麻痺などの運動障害
- 感覚障害
- 歩行障害
- 失語症、構音障害
- 摂食嚥下障害
- 中枢性疼痛と呼ばれる痛み
- 排尿障害
- 記憶障害、注意障害、空間無視、失行などの高次脳機能障害
- 脳卒中後うつ
- せん妄、妄想、感情障害
- てんかん、痙攣
- 痙縮