藤沢市にある辻堂脳神経・脊椎クリニックへようこそ。院長の中川です。
頭をぶつけることは頭部打撲や頭部外傷と呼ばれ、脳や頭蓋骨、頭皮に損傷を起こす危険性があります。頭部外傷の重症度はぶつけた際に加わる力の強さや向き、打撲部位、また抗血小板薬や抗凝固薬といういわゆる「血液をさらさらにする薬」を内服しているかなどにより様々です。どのような場合に検査を受けた方が良いのかなど、ここでは頭部外傷について説明していきます。
頭部外傷
ヒトは他の動物と比べて脳が非常によく発達しているため、他の動物よりも相対的に頭が大きいという特徴があります。さらに重たい頭が一番上にくるという不安定な形で二足歩行をするため四足歩行の動物と比較して転倒しやすく、その際には大きくて重たい頭をぶつけやすいという特徴があります。つまり人間は頭をぶつけやすい動物なのです。
頭の外傷は他の部位よりも重症となりやすい傾向があります。安易なCTの撮影は若年者において、将来の脳腫瘍発生のリスクとなるため厳に慎むべきでありますが、危険性のある方には必須の検査となります。当院では受傷時の状況と受傷後の症状から被曝のリスクと安全性を考慮して、最適な検査を行わせていただきます。
頭を直接打撲していなくても脳損傷が起こる?
頭部外傷というと頭を直接ぶつけることを想像しますが、直接打撲する以外にも頭部に対して力が伝わることがあります。そのため頭を直接ぶつけていなくても脳に損傷を起こすことがあり注意が必要です。まず顔を打撲した際に「頭はぶつけていない」から大丈夫と思われている方もいますが、この場合は頭をぶつけた時と同様の対応が必要です。通常、首から上の部分をぶつけた場合は脳への影響を心配する外傷です。また頸椎や頸髄への影響も起こり得る打撲となります。
また尻もちをついたり、体から地面に落下するなど、頭は打撲していないけれど体に強い衝撃が伝わった場合も注意が必要です。急な体の移動に伴い首が過度に伸ばされたりすることで頸椎や周囲の筋肉を痛めることがあります。また脳は頭蓋骨に覆われることで外力から守られていますが、急な動きの開始、もしくは停止の際には頭蓋骨の内側に脳がぶつかってしまうことがあり、そのため脳に損傷が起こる可能性があります。これは車が事故などで急停止した場合でも、運転手は慣性の法則によりすぐには止まれず、ハンドルやドアなどの車の内側にぶつかってしまうのと同様です。
- 頭をぶつけた場合
- 顔や顎をぶつけた場合
- 尻もちなど体に強い衝撃を受けた場合
- 交通事故
- 高所からの転落
症状
全くの無症状の場合から頭痛や嘔吐、また意識障害など外傷の程度により症状も大きく異なります。症状がある場合はもちろんですが、最初は無症状でも時間の経過とともに症状が出現する場合があるので注意しましょう。
- 頭痛
- 嘔吐
- 運動麻痺・手足の麻痺
- 感覚障害・しびれ
- 意識障害・記憶障害
- 言語障害
- 痙攣
検査が必要な状況
頭部外傷の場合に必ず検査が必要というわけではありません。受傷の状況や症状、年齢や既往歴、内服している薬剤などから総合的に判断して必要な検査を行います。頭部外傷の際に行われる検査は主に一般撮影(いわゆるレントゲン検査)とCT検査です。検査が必要となる可能性がある主な状況は以下のとおりです。
- 声をかけないと目を閉じてしまう、傾眠である
- 普段ある喃語を認めない
- 自発的に動かない
- 皮下血腫がある
- 5秒以上の意識消失があった
- 0.9メートル以上の高さからの転落
- 親から見ていつもと異なる
2歳未満では特にベッドやソファからの転落、抱っこからの落下などによる受傷が多いです。1メートル近い高さから落下した際は少なくとも専門医による診察を受けることが勧められます。
- 声をかけないと目を閉じてしまう、傾眠である
- 混乱した様子がある
- 同じ質問を繰り返す
- 簡単な命令に従えない
- 激しい頭痛
- 嘔吐
- 意識消失があった
- 1.5メートル以上の高さからの転落
- 受傷2時間後に日付や曜日、今いる場所のいずれかがわからない
- 2回以上の嘔吐
- 65歳以上
- 受傷する30分以上前の記憶がない
- 交通事故
- 高所からの転落
- 抗凝固薬を内服している
上記のような症状以外でも重篤な頭部外傷となることがあります。心配な場合はご相談ください。
代表的な病気
脳震盪
CTなどの検査で異常を認めないが、一時的に脳の症状がみられることを脳震盪といいます。頭痛や嘔吐、めまい、記憶障害、意識障害などの症状が代表的です。頭部に強い衝撃を受け、脳に一時的なダメージが出るために起こる症状です。治療においては一定期間の安静が必要となります。特にスポーツで受傷した場合の性急な競技への復帰は、さらに重篤な事故の原因となるため推奨されません。競技への復帰時期は必ず医師に相談してください。
外傷性頭蓋内血腫
頭部外傷により頭蓋骨の内側に出血を起こす病気です。急性硬膜外血腫や急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳内血腫、脳室内出血と病名がたくさんありますが、どこに出血を起こしているかの違いです。硬膜やくも膜とは頭蓋骨のすぐ内側にある脳を覆っている膜の名前です。重篤な頭部外傷では複数の場所に出血することも多いので、これらの病名が2つ以上つくこともあります。これらは受傷直後は無症状もしくは一見軽症であるのに、数時間以内に致命的となることがある怖い病気です。CTにより診断を行います。
- 急性硬膜外血腫
- 急性硬膜下血腫
- 外傷性くも膜下出血
- 脳内血腫
- 脳室内血腫
外傷性脳実質損傷
頭部外傷により脳自体が損傷を受けた状態です。損傷の受け方により脳挫傷とびまん性軸索損傷という2つの病態があります。脳挫傷は損傷を受けた部位の脳が壊死を起こしている病気です。びまん性軸索損傷は神経細胞の持つ長い神経線維が広い範囲で断裂してしまう病気です。いずれの病気も重症度に応じて意識障害を起こします。CTやMRIにより診断を行います。
- 脳挫傷
- びまん性軸索損傷
頭蓋骨骨折
文字通り頭蓋骨の骨折ですが、どこを骨折したかで症状や治療が異なります。頭蓋骨は、脳をヘルメットのように上から包むように保護する頭蓋冠と、脳の底を支えている頭蓋底とに区別されます。頭蓋底の骨は鼻腔や咽頭などと脳を隔てる骨です。頭蓋冠の骨折はレントゲン検査で診断可能なことが多いですが、頭蓋底の骨折は単純レントゲン撮影での診断は困難であり、CT検査が必要となります。頭蓋底骨折では脳の底面にある神経が損傷されることがあり、顔面神経麻痺、聴力障害、視力障害などを起こす危険性があります。また骨折により骨の直下にある硬膜とくも膜が損傷され、脳脊髄液が漏れ出す髄液漏を起こすことがあります。髄液漏では頭痛や頸部痛、めまい、倦怠感、不眠、記憶障害、髄膜炎など様々な症状を起こす危険性があります。
慢性硬膜下血腫
現在でも病気の発生に関して不明な点が多いですが、外傷が原因で起こると考えられています。軽い外傷の受傷後3週間以上経過してから硬膜の下に血液が貯まっていく病気です。受傷後3週間〜3ヶ月で血腫が徐々に増え、脳の圧迫が強くなると発症します。以下のように多彩な症状が認められます。
- 頭痛、嘔気・嘔吐
- 認知症状、記憶障害
- 片麻痺
- 失語
- 尿失禁
認知症を発症したと思われて家族に連れられて受診する方もいます。慢性硬膜下血腫を起こしやすい人の特徴は以下のとおりです。
- 高齢者(60歳以上)
- アルコール多飲者
- 抗凝固薬内服中である
- 血液透析を受けている
- 血液凝固異常がある
慢性硬膜下血腫を起こしやすい人に該当する場合は、頭部外傷が重症化するリスクも高いため、受傷後の急性期の時点で医師へ相談することが勧められます。
また頭皮は血管が豊富なため、傷の大きさの割に出血が多くなるという特徴があります。止血のために処置が必要となることも多いです。頭部外傷でご心配の際は我慢せず、お気軽にご相談ください。