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脳神経外科 内科 漢方

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しびれ外来

「しびれ」は自覚的感覚であり、その意味するところは多様で人により異なります。一般的には正座の後に出現するような「ジンジンする」、「ビリビリする」、「チクチクする」と表現される症状を指しますが、同じ「しびれ」の訴えであっても症状がこれらと大きく異なることがあります。感覚が過敏になる「しびれ」や感覚が鈍くなる「しびれ」、一枚皮をかぶったような「しびれ」、何かがついているような「しびれ」、焼けつくような「しびれ」、うずくような「しびれ」、動きが鈍くなる「しびれ」などはよく経験される「しびれ」の症状です。しびれ外来の難しいところは、このように多様な「しびれ」があり、また「しびれ」の原因疾患が多岐に及ぶ点です。当院のしびれ外来では「しびれ」という本人にしかわからない、しかし一番大切な症状の確認から始めます。

この記事の著者

辻堂脳神経・脊椎クリニック 院長

中川 祐

なかがわ ゆう

プロフィール

慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院、済生会宇都宮病院、足利赤十字病院、日野市立病院にて勤務後、辻堂脳神経・脊椎クリニックを開院。 脳神経外科専門医・指導医 脳神経血管内治療専門医

そもそも「しびれ」とは?

「しびれ」とは触った感触である触覚や痛みである痛覚、温度を感じる温度覚、振動を感じる振動覚などの感覚が鈍くなる、もしくは消失してしまう症状です。「ジンジン」、「ビリビリ」「チクチク」などの異常な感覚を伴うこともあります。これらは神経系の機能不全の症状である可能性があります。

感覚はどのように脳へ伝わるのか?

人の感覚が正常に脳で認識されるためには、皮膚や筋肉で受ける刺激を脳まで伝える必要があります。体の感覚(体性感覚)は触覚・圧覚と痛覚の2つに大別されます。

感覚受容器

末梢神経の末端には感覚を受けとることに特化した感覚受容器があります。この感覚受容器は皮膚の真皮や皮下組織に存在し、受容器の種類により受け取る感覚が異なります。「ジンジン」、「ビリビリ」など「しびれ」方の違いは、感覚受容器の違いであることがわかっています。

また痛覚を伝える感覚神経では神経の末端に感覚受容器を持たず、神経線維の末端を自由神経終末と呼びます。この自由神経終末から痛みの伝達が起こります。

末梢神経

感覚受容器や自由神経終末から末梢神経の神経線維を伝わり脊髄まで刺激が伝達されます。それぞれの感覚により伝わる神経線維が異なります。

脊髄

脊髄に到達した神経線維は脊髄を脳の方へ上行します。触覚や圧覚、痛みなど感覚の種類により神経線維はそれぞれ別の経路を走行します。

感覚受容器が検知した情報が信号として脳に伝わり、脳が解釈することで触覚や圧覚、痛覚を感じます。

「しびれ」の原因は?

「しびれ」の自覚は脳でなされ、手足の末梢に存在する末梢神経から脊髄、脳へと至る感覚神経系のどこかに異常があることを疑う症状です。ただ「しびれ」の原因が神経系にあるとは限りません。神経系の疾患以外では長時間の圧迫やパニック発作(過換気)、脱水、循環不全、代謝性疾患、内分泌疾患なども「しびれ」の原因となることがあります。「しびれ」の原因は多岐におよび、これらの精査を行っても原因が分からないこともあります。

しびれ外来において必ずお聞きすること

「しびれ」は他人にはわからない

「しびれ」という症状は自分でしか感じることができません。どれほどの名医であっても、その感覚を言葉なしに共有することはできません。そのため「しびれ」の症状を細かく説明していただく必要があります

何処がしびれるのか?

「しびれ」の起こる部分を教えていただきます。「しびれ」の原因となる病気は多岐にわたり、また疾患が起こる部位も全身に及びます。しかし全ての病気を対象に全身をくまなく検査するということは行いません。「しびれ」の起きている場所や範囲により、「しびれ」の原因を絞り込むことができます。

どのようにしびれるのか?

「しびれ」の感じ方を言葉で表現していただきます。「しびれ」の症状により、どのような神経が障害されているかを推測します。また運動麻痺や痛みを「しびれ」と捉える方もおり、教えていただくことで診断が可能となることがあります。以下が代表的な「しびれ」です。

  • ジンジン
  • チクチク
  • ピリピリ
  • 針で刺すような
  • 電気が走るような
  • 正座を長くしたあとのような
  • 皮が一枚ついたような

どのような時に症状が出るか?もしくは改善するか?

「しびれ」の症状が常に一定であるのか、もしくは変動するのか、また変動するのであればどのような時に変化するのかを教えていただきます。

他の症状はないか?

「しびれ」以外に「痛み」や「手足の動かしにくさ」を伴うことがあります。これらの症状がないかを教えていただきます。

ご自身の症状をしっかりと把握していただくことが、「しびれ」の診断の一歩目となります。

「しびれ」を起こす代表的疾患

頭蓋内病変

脳梗塞・脳出血

脳梗塞や脳出血の症状は運動障害を認めることが多いですが、感覚障害による「しびれ」のみの場合もあります。障害される部位により感覚障害の範囲が異なります

脳梗塞

温度と痛みの感覚である「温痛覚」や腕・脚がどのような形でどちらを向いているかなどを感じる「深部感覚」など感覚にも種類があり、脳の障害部位により障害される感覚も異なることがあります。

またジンジン、ビリビリと表現される耐え難い持続的な感覚である「異常感覚」と持続性の痛みなどを認めることもあります。

三叉神経障害

顔面から頭の感覚は三叉神経を介して脳に伝達されます。そのため三叉神経に障害が起こると、顔面や頭の「しびれ」が出現します。三叉神経の障害は脳腫瘍や膠原病、帯状疱疹などにより起こることがあります。

脊椎・脊髄疾患

頸椎症

頸椎症は首の骨である頸椎とクッションの役割を果たしている椎間板に生じる変性(老化現象)により頚部の痛みが生じる疾患です。長い年月をかけて頸椎に形成される骨のトゲ(骨棘)と椎間板の膨隆により脊髄や神経を圧迫し、しびれや痛みを起こします。障害される部位が脊髄か神経根かで症状が異なります。

頸椎症
  • 頸椎症性脊髄症:頸椎の変性により脊髄が圧迫を受ける疾患です。約7割の方が手のしびれ感で発症しますが、下肢のしびれや歩行障害で発症する方もいます。
  • 頸椎症性神経根症:頸椎の変性により神経根が椎間孔で圧迫される疾患です。骨棘や椎間板による機械的圧迫に加えて、炎症が生じることでしびれとともに強い痛みが生じます。上肢や頚部に生じる痛みやしびれ感は多くの方に認められる症状で、頚部を伸展したり、咳・くしゃみなどにより症状が増強されます。

腰部脊柱管狭窄症

腰のあたりで神経の通り道である脊柱管や椎間孔が狭くなることで神経が圧迫されるために痛みやしびれが生じる疾患です。腰椎の加齢性変化によるため高齢の方に起こりやすく、下肢のしびれと歩行障害をきたす代表的疾患です。

足の痺れ

狭窄する部位により腰椎神経根症と馬尾症候群、円錐部症候群、円錐上部症候群の3つの症候群が知られており、それぞれ症状が異なります。しびれをあまり認めず運動麻痺や排尿の障害を認めることもあります。「しびれ」は左右差があり、足先ほどしびれが強くなりやすいです。

脊髄腫瘍

脊髄に発生する腫瘍により神経や脊髄が圧迫されることで「しびれ」を起こします。腫瘍の発生する部位により症状も異なりますが、夜間に悪化する背中や腰の痛みを伴うことが多いです。腫瘍の種類により数ヶ月から数年かけて進行します。

脊髄空洞症

脊髄の中に水の溜まった空洞が生じる病気で、空洞ができた部位の神経が障害されて「しびれ」を起こします。Chiari奇形や外傷、脊髄腫瘍などが原因となります。片側もしくは両側の腕から手にかけて「しびれ」を起こし、温度や痛みに対する感覚が障害されますが、触覚は障害されないという特徴があります。またくしゃみや怒責により腕から手にかけて痛みが出ることも特徴の一つです。「しびれ」が発生してから数年すると腕から手にかけて筋力低下と筋肉の萎縮が起こります。

脊髄硬膜動静脈瘻

脊髄を覆う硬膜という膜を流れる動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接吻合し、圧の高い動脈血が硬膜静脈に流れ込み、脊髄周囲の静脈へと逆流してしまう疾患です。脊髄の静脈圧が上昇すると脊髄を環流する血流が減少し、神経組織の虚血が起こります。まず浮腫が起こり、虚血が持続すると壊死に至ります。背部痛と下肢のビリビリとしたしびれで始まり、その後に感覚障害と運動麻痺が出現してきます。

多発性硬化症

神経線維を覆うミエリンという構造が破壊される「脱髄疾患」と呼ばれる病気です。ミエリンが破壊されると線維を介した信号が伝わらない、または異常な信号を伝えたりと伝達に障害が生じます。脱髄の起こる部位により多くの症状を引き起こし、特に脊髄の病変では左右非対称な四肢のしびれや筋力低下が起こります。これら多発性硬化症の症状は体温の上昇により悪化し、体温低下により改善するという特徴(Uhthoff徴候)があります。

視神経脊髄炎

自分の免疫が誤って視神経や脳、脊髄の細胞を攻撃することで炎症を起こす「自己免疫疾患」です。どの部位に炎症を起こすかで症状が異なってきます。視神経の炎症により急な視力低下や視野欠損、目の奥の痛みなどを起こします。脊髄の炎症では上肢や体幹の痛みで発症し、その後に手足のしびれや感覚障害が起こります。特に下肢にしびれや感覚障害を起こしやすいです。また脳の炎症により、なかなか止まらない吃逆や吐き気を起こします。

サルコイドーシス

原因不明の多臓器に病変が起こる疾患で、「肉芽腫」という結節がリンパ節、目、肺、心臓、神経などのさまざまな臓器にできます。神経では脳や脊髄、末梢神経のどの部位にもできる可能性があり、できる部位により症状が異なります。脊髄に生じた場合は下肢のしびれや筋力低下を起こしやすいです。

非外傷性脊髄硬膜外血腫

激しい咳や嘔吐、重い物を持ち上げた後などに突然、脊髄を覆う硬膜の外側に出血を起こすことがあります。背中や首の痛みが起こり、その後にしびれや運動障害が出現します。出血の原因として血管奇形や抗凝固薬の内服などがありますが、このような原因がない場合もあります。

アトピー性脊髄炎

アトピー性皮膚炎を持つ方に起こる脊髄の炎症により四肢の遠位部にジンジンとした痺れを起こします。アトピーが悪化した後に起こすことが多いです。

帯状疱疹性脊髄炎

稀に帯状疱疹に合併して脊髄の炎症が起こります。水痘・帯状疱疹ウイルスは神経細胞への親和性が高いため脊髄の神経細胞やグリア細胞に感染し、脊髄炎を起こします。帯状疱疹の出現後に、数日から数週後に同側の下肢にしびれや運動麻痺が生じます

末梢神経疾患

手根管症候群

手根管は手首にある手根骨と靱帯に囲まれた狭い空間で、9本の腱と正中神経という神経が存在します。この部位で正中神経が圧迫されて障害を受けるのが手根管症候群です。正中神経が関与している親指、人差し指、中指の3本にしびれが起こり、夜間早朝に悪化しやすいです。また本や電話を持つなど手を使うとしびれが悪化します。

肘部管症候群

尺骨神経が肘の「肘部管」という部位で圧迫されて障害を受ける病気です。小指と薬指にしびれが起こります。

胸郭出口症候群

腕に伝わる神経は頚椎を分岐した後に鎖骨の下を通り腕へ向かいます。この部位で鎖骨や肋骨、斜角筋と呼ばれる筋肉などに神経が圧迫されることがあり、胸郭出口症候群と呼ばれます。腕神経叢の下神経幹が特に障害されやすいため、小指と薬指にしびれが起こります。

糖尿病性多発ニューロパチー

ニューロパチーとは末梢神経が障害され、機能不全になる病気です。糖尿病性多発ニューロパチーは高血糖が持続することで発症・進展する神経障害で、主に両足の足先・足底にピリピリ、ジンジンとした「しびれ」で発症します。進行すると足関節から膝関節の方へと「しびれ」の範囲が拡大し、痛みなどの感覚も感じなくなります。

糖尿病では上記の神経障害以外にも急性有痛性糖尿病性ニューロパチーや治療誘発性糖尿病性ニューロパチー、高血糖性ニューロパチー、糖尿病性腰仙部神経根神経叢ニューロパチー、胸部神経根ニューロパチーなどの神経障害によりいろいろな「しびれ」の原因となります。

小径線維神経障害:Small Fiber Neuropathy (SFN)

感覚神経の線維には複数の種類があり、障害される神経の線維により「しびれ」の症状も異なることが知られています。大径有髄線維という神経線維の障害では「ピリピリ」「ジンジン」とした症状を認めます。一方で小径有髄線維と呼ばれる有髄Aδ線維と無髄C線維の障害では「チクチク」や痛み、自律神経の障害を認めます。この小径有髄線維が障害される原因は多岐にわたります。

典型的には両側の下肢の足趾から「しびれ」と痛みが始まり、徐々に「しびれ」の範囲が上行し、両手の指先にも認めるようになります。少し触れるだけで強い痛みを感じるアロディニアを起こしやすく、温まったり、反復することで症状が増悪する特徴があります。

ギラン・バレー症候群:Guillain-Barre syndrome (GBS)

ギラン・バレー症候群は神経線維である「軸索」や軸索を覆う「髄鞘」を自身の免疫が攻撃することで障害される末梢神経障害です。約2/3の方々が1~2週間前に感染症を起こしています。カンピロバクターやマイコプラズマ、サイトメガロウイルス、EBウイルスの4つの感染症がギラン・バレー症候群に先立って起こる感染症として知られています。手足のビリビリとした「しびれ」で始まり、急速に下肢に目立つ筋力の低下が出現してきます。その後、四肢の筋力の低下となり、20~30%の症例では呼吸筋の麻痺まで進行することがあります。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎:Chronic Inflammatory demyelinating polyneuropathy (CIDP)

神経線維を覆う髄鞘が障害される末梢神経障害の病気です。ギラン・バレー症候群のように手足のビリビリとした「しびれ」で始まり、その後2か月以上にわたり四肢の神経障害が悪化していきます。

アルコール性ニューロパチー

アルコールの大量摂取により末梢神経が障害される病気です。大量飲酒とはアルコールを1日あたり60mL(日本酒に換算した場合で1日3合)の飲酒です。大量飲酒を3年間以上継続している方に両足の「針で刺されるような」もしくは「灼けるような」しびれで発症します。1ヶ月以上の経過で徐々にしびれの範囲が広がります。アロディニアを高率に起します。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチー

ビタミンB1が欠乏すると神経線維の軸索に障害が起こります。ビタミンB1が欠乏する理由は複数ありますが、炭水化物を主体とした偏食、アルコール依存症、胃の切除術後が3大要因です。このような背景のある方に両下肢のしびれや筋力低下で発症し、急速に歩行困難となります。

アミロイドニューロパチー

アミロイドとは身体を構成するタンパク質の形や性質が変化し、水や血液に溶けにくいナイロンに似た線維状の塊となったものです。全身の様々な臓器に蓄積し機能異常を起こし、末梢神経に蓄積するとニューロパチーを起こします。両足底の「ビリビリ」、「灼けるような」しびれや痛みで発症し、ゆっくりと進行し、次第に両手にもしびれが拡大します。

傍腫瘍性神経症候群

傍腫瘍性神経症候群とは癌などの悪性腫瘍により起こる神経障害です。神経細胞に対する抗神経抗体が形成され、自分の免疫により神経細胞が障害されます。腫瘍による神経細胞の障害の機序により複数の病型がありますが、「しびれ」をきたす病型としては末梢からの感覚神経細胞の集合である後根神経節が障害される亜急性感覚性ニューロノパチー(neuronopathy)があります。初期症状としては歩行が不安定となり、片側の上肢に「ビリビリ」、「灼けるような」痛みを伴うしびれが起こりやすいです。

薬剤性ニューロパチー

薬剤性ニューロパチーは新しい薬剤を開始して数週間から数ヶ月後に発症する神経障害です。薬剤の種類により起こりやすい神経障害が異なるため、症状の現れ方も異なります。典型的には足趾から始まり、両手両足の指先から徐々に広がる感覚障害です。発症早期に薬剤を中止することで症状も軽快します。

しびれの原因は多岐にわたりますが、脳卒中のような重篤な疾患や急速に進行する疾患が多く含まれています。当院では日本脳神経外科学会専門医/指導医である院長が診断・治療を行っています。お気軽に相談いただけるクリニックですので、お困りのこと、心配なことがありましたら、いつでもいらしてください。