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子どもの片頭痛に予防薬?CGRP抗体薬フレマネズマブの臨床試験結果を解説|辻堂脳神経・脊椎クリニック

執筆・監修:中川 祐 / 辻堂脳神経・脊椎クリニック院長:【脳神経外科 / ヘルスケアライター等】

— CGRP関連抗体薬フレマネズマブの小児臨床試験(NEJM掲載)から見えてきたこと —

お子さんの片頭痛、「様子を見ましょう」だけで大丈夫?

「うちの子、また頭が痛いと言って学校を休んでいるんです…」

外来でこのようなご相談をいただくことは決して珍しくありません。実は片頭痛は子どもや10代の若者にも多い病気で、有病率はおよそ11%と報告されています。つまり、クラスに3〜4人は片頭痛を抱えている計算になります。

お子さんの片頭痛は、大人と同様に生活への影響が大きく、授業の欠席や学業成績の低下、友人との活動に参加できないなど、成長期の大切な時間を奪ってしまいます。保護者の方にとっても、お子さんの痛みを目の当たりにしながら、付き添いのために仕事を休まざるを得ないなど、家族全体の問題になることも少なくありません。

これまで、子どもの片頭痛の予防治療に対して十分なエビデンスに基づいた薬剤は限られていました。しかし2025年8月、米国FDA(食品医薬品局)が、CGRP関連抗体薬であるフレマネズマブ(米国での商品名:アジョビ)を、6〜17歳の反復性片頭痛の予防治療に承認しました。これは、CGRP関連抗体薬として初めての小児適応承認です。

今回は、この承認の根拠となった臨床試験(SPACE試験)の結果がNew England Journal of Medicine(NEJM)に掲載されましたので、その内容を保護者の皆さまにもわかりやすくお伝えしたいと思います。

片頭痛と「CGRP」の関係

片頭痛は、単なる「ひどい頭痛」ではなく、脳の神経と血管が関わる神経疾患です。片頭痛が起こるメカニズムには、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が深く関わっていることがわかっています。

CGRPは、三叉神経(顔面の感覚を伝える神経)から放出されるタンパク質で、血管を拡張させたり、周囲に炎症を引き起こしたりする作用があります。片頭痛の発作時には、血液中のCGRP濃度が上昇していることが知られています。

フレマネズマブは、このCGRPに直接結合してその働きをブロックするヒト化モノクローナル抗体(いわゆる抗体薬)です。CGRPの過剰な作用を抑えることで、片頭痛の発作そのものを起きにくくする「予防薬」として働きます。

成人では既に日本を含む多くの国で使用されており、当院でも成人の片頭痛患者さんにアジョビ(フレマネズマブの日本での商品名)を処方しています。月1回の皮下注射という手軽さと、高い有効性から、多くの患者さんにご好評をいただいています。

片頭痛の発生メカニズムとCGRP抗体薬フレマネズマブ(アジョビ)の作用機序を示すインフォグラフィック。ステップ1:ストレス・天候等の刺激、ステップ2:三叉神経からCGRP放出、ステップ3:血管拡張・炎症、ステップ4:片頭痛発作(拍動性の痛み・吐き気)の4段階を説明。図の下部では、フレマネズマブがCGRPをブロックし、ステップ2から3への進行を阻止することで発作を予防する仕組みを解説。従来の予防薬と比較して、特定の原因物質に作用するため副作用が少ないという特徴も記載。

SPACE試験:子どもを対象とした大規模臨床試験の結果

試験の概要

SPACE試験は、9カ国・74施設で実施された第3相(最終段階)の臨床試験です。対象は6〜17歳の反復性片頭痛(1カ月あたり14日以下の頭痛がある片頭痛)と診断されたお子さん237名で、参加者は無作為にフレマネズマブ群またはプラセボ(偽薬)群に割り付けられ、3カ月間にわたって月1回の皮下注射を受けました。

投与量は体重によって調整され、45kg未満のお子さんには120mg、45kg以上のお子さんには225mgが投与されました。なお、試験期間中も、片頭痛の発作が起きた際には通常の頓挫薬(痛み止め)を使用することが認められていました。

主な結果:片頭痛の日数が有意に減少

3カ月間の治療期間で、以下のような結果が得られました。

1カ月あたりの片頭痛日数の変化

フレマネズマブ群では平均2.5日減少、プラセボ群では1.4日減少し、その差は1.1日でした(統計学的に有意:P=0.02)。ベースラインの片頭痛日数が約7〜8日であったことを考えると、およそ3分の1の片頭痛日数を減らすことができた計算になります。

片頭痛日数が半分以上減った患者さんの割合(50%レスポンダー率)

フレマネズマブ群では47.2%のお子さんが片頭痛日数の半減を達成したのに対し、プラセボ群では27.0%にとどまりました(P=0.002)。予防治療の成功の目安とされる「片頭痛日数の50%以上の減少」を、約半数の方が達成できたことは非常に意義のある結果です。

頓挫薬(痛み止め)の使用日数

フレマネズマブ群では月あたり2.1日の減少、プラセボ群では1.0日の減少でした(P=0.002)。頓挫薬の使用が減ることは、薬物乱用頭痛(痛み止めの使いすぎによる頭痛の悪化)のリスクを低下させる点でも重要です。

SPACE試験の主要結果を示す棒グラフ。フレマネズマブ群(紺色)とプラセボ群(茶色)を比較しています。項目は左から「片頭痛日数の減少(2.5対1.4)」、「中等度以上の頭痛日数の減少(2.6対1.5)」、「頓挫薬使用日数の減少(2.1対1.0)」で、すべての項目においてフレマネズマブ群が1.1日分有意に減少(改善)したことを示しています。下部には出典としてHershey AD, et al. N Engl J Med. 2026が記載されています。
図3:片頭痛日数が半分以上減った患者の割合(50%レスポンダー率)の比較。左側のフレマネズマブ群は47.2%(123名中58名)、右側のプラセボ群は27.0%(111名中30名)が達成。両群の差は20.1ポイントで、統計的な有意差(P=0.002)が認められた。下部には50%レスポンダー率が予防治療の成功指標であることの解説と、出典(Hershey AD, et al. N Engl J Med. 2026)が記載されている。

安全性:お子さんへの副作用は?

院長コラム「安全性について:副作用のまとめ」。臨床試験データに基づく安全性評価の要約。

安全性指標:死亡例なし。自殺念慮の増加なし。重篤な有害事象は薬剤群1.6%(プラセボ群2.7%)で特有の傾向なし。副作用による投与中止は薬剤群0.8%(軽度の肝酵素上昇)。

主な副作用の発現率(薬剤群 vs プラセボ群):注射部位の赤み(9.8% vs 5.4%)、鼻咽頭炎(8.9% vs 7.1%)、注射部位の痛み(4.9% vs 5.4%)、注射部位の腫れ(4.9% vs 0.9%)、めまい(4.1% vs 0%)。
結論として、大部分の副作用は注射部位の一時的な反応であり、重篤なものはまれであったと説明しています。

保護者の方が最も気になるのは安全性ではないでしょうか。SPACE試験では、フレマネズマブ群の55.3%、プラセボ群の49.1%に何らかの有害事象が報告されましたが、大部分は軽度から中等度のものでした。

最も多かった副作用は注射部位の赤み(紅斑)で、フレマネズマブ群で9.8%、プラセボ群で5.4%に見られました。注射部位の痛みや腫れも報告されていますが、いずれも一時的で重篤なものではありませんでした。

重篤な有害事象はフレマネズマブ群で2名(伝染性単核球症に伴う肝炎と片頭痛の増悪が各1名)に報告されましたが、プラセボ群でも3名に報告されており、フレマネズマブ特有の重篤なリスクは認められませんでした。また、自殺念慮や行動の増加は認められず、臨床検査値、心電図所見にも安全上の懸念となる変化はありませんでした。

なお、6〜11歳の小児と12〜17歳の思春期の間で、副作用の傾向に大きな違いは見られませんでした。これらの安全性プロファイルは、成人を対象としたこれまでの臨床試験の結果とおおむね一致しています。れる「片頭痛日数の50%以上の減少」を、約半数の方が達成できたことは非常に意義のある結果です。

日本での現状と今後の展望

【重要】現時点(本記事執筆時点)では、日本においてフレマネズマブ(アジョビ)の小児への適応は承認されていません。日本での承認は成人の片頭痛発作の発症抑制に限られており、18歳未満の方への使用は添付文書上の適応外となります。

しかし、米国FDAがCGRP関連抗体薬として初めて小児適応を承認し、その根拠となる高い水準のエビデンスがNEJMに掲載されたことは、今後の日本における承認申請や臨床ガイドラインの改訂に向けた大きな一歩と言えます。

現在、フレマネズマブの慢性片頭痛を対象とした小児臨床試験(NCT04464707)も完了しており、両試験の長期継続投与試験も進行中です。これらの結果が揃うことで、さらに幅広いエビデンスが蓄積されることが期待されます。

保護者の方へお伝えしたいこと

お子さんの片頭痛でお悩みの保護者の方に、今回の研究結果を踏まえてお伝えしたいことがあります。

子どもの片頭痛は「気のせい」ではありません

片頭痛は脳の機能に関わる疾患であり、CGRPという明確な生物学的メカニズムが関与しています。お子さんが繰り返し「頭が痛い」と訴える場合、仮病やストレスだけが原因ではない可能性があります。

予防治療という選択肢があります

片頭痛の頻度が多い場合(目安として月に4日以上)、発作が起きてから痛み止めを飲むだけでなく、発作の回数そのものを減らす「予防治療」が推奨されます。現在日本で使用可能な小児の予防薬には限りがありますが、世界では新しい治療選択肢が広がりつつあります。

まずは正確な診断を受けることが大切です

子どもの頭痛には片頭痛以外にもさまざまな原因があります。適切な治療を行うためには、まず専門医による正確な診断が不可欠です。頭痛ダイアリー(頭痛の記録)をつけていただくと、診断や治療方針の決定に大変役立ちます。

生活習慣の見直しも重要です

薬物治療と並行して、十分な睡眠、規則正しい食事、適度な運動、スクリーンタイムの管理といった生活習慣の改善も、片頭痛の予防に有効です。

「お子さんの頭痛、こんなときは受診を」というタイトルのインフォグラフィック。受診の目安と診療の流れを5つのステップで解説しています。 こんな症状はありませんか?(月4回以上の頭痛、学校を休むなど) 頭痛ダイアリーをつけましょう(1〜2カ月の記録が診断に役立つ) 専門医を受診(問診、神経学的診察、必要に応じたMRI検査) 治療の選択肢(急性期治療と予防治療、生活習慣の改善) 定期的な経過観察(治療効果の確認と継続的なフォロー) 下部には、辻堂脳神経・脊椎クリニックの案内として「たかが頭痛と思わず、お気軽にご相談ください」とのメッセージが添えられています。

まとめ

今回ご紹介したSPACE試験は、CGRP関連抗体薬であるフレマネズマブが、6〜17歳の反復性片頭痛のお子さんにおいてプラセボと比較して有意に片頭痛日数を減少させ、安全性も良好であったことを示した重要な研究です。この結果は、子どもの片頭痛治療に新たな可能性を示すものと言えます。

日本ではまだ小児への承認はありませんが、今後の動向を注視しつつ、当院では最新のエビデンスに基づいた片頭痛診療を引き続き行ってまいります。お子さんの頭痛でお困りの方は、お気軽にご相談ください。


【参考文献】

Hershey AD, Szperka CL, Barbanti P, et al. Fremanezumab in Children and Adolescents with Episodic Migraine. N Engl J Med. 2026;394:243-252.

【本記事に関する重要な注意事項】本記事は海外の臨床試験結果に関する情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。フレマネズマブ(アジョビ)は、日本では成人の「片頭痛発作の発症抑制」に承認されていますが、本記事執筆時点で小児(18歳未満)への適応は日本国内では承認されていません。お子さんの治療については必ず主治医にご相談ください。

中川 院長
中川 院長

最後までお読みいただきありがとうございました。あなたの毎日が少しでも健やかでありますように。

この記事の著者

辻堂脳神経・脊椎クリニック 院長

中川 祐

なかがわ ゆう

プロフィール

慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了医学博士。慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院、済生会宇都宮病院、足利赤十字病院、日野市立病院にて勤務後、辻堂脳神経・脊椎クリニックを開院。 脳神経外科専門医・指導医 脳神経血管内治療専門医

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