月に何度も繰り返す片頭痛に悩まされていませんか?従来の予防薬とは異なる新たな選択肢として、高血圧治療薬「カンデサルタン」が片頭痛予防に有効であるという研究結果が注目を集めています。この記事では、カンデサルタンによる片頭痛予防の有効性と安全性について、信頼できるデータをもとに徹底解説します。
本記事で解説する主な根拠は、460名の片頭痛患者を対象に行われた信頼性の高いランダム化比較試験(RCT)の結果に基づいています。カンデサルタン16mg、8mg、そしてプラセボ(偽薬)の3群で比較した、この重要な試験データを紐解きます。結論から言うと、この試験ではカンデサルタン服用群で月平均の頭痛日数がプラセボ群よりも約1〜2日有意に減少し(片頭痛発作が50%以上減少した割合はカンデサルタン群で50%、プラセボ群で28%)、予防効果が明確に示されました。ただしカンデサルタン群でめまいの発生頻度がやや高い(カンデサルタン群30%、プラセボ群13%)など、副作用情報も含めて理解することが重要です。医師と相談する際の参考にぜひお役立てください。

辻堂脳神経・脊椎クリニック 院長
中川 祐
なかがわ ゆう
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了医学博士。慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院、済生会宇都宮病院、足利赤十字病院、日野市立病院にて勤務後、辻堂脳神経・脊椎クリニックを開院。 脳神経外科専門医・指導医 脳神経血管内治療専門医
片頭痛予防治療の現状と課題:なぜ新たな選択肢が必要なのか
片頭痛は単なる「頭痛」ではなく、仕事や日常生活に甚大な影響を及ぼす神経疾患です。適切な片頭痛予防治療は、この障害を軽減し、患者さんの生活の質(QOL)を大きく改善するために不可欠な治療法です。しかし、現在の予防治療にはいくつかの大きな障壁が存在します。
治療の必要性と現在の限界
現状、片頭痛に対して高い有効性を持ちながら、副作用が少なく、かつ手頃な価格の予防薬は依然として限られています。多くの患者さんが以下の課題に直面しています。
- 有効性の限界:現在の予防薬では効果を実感できない、あるいは効果が不十分なケースがある。
- 副作用の懸念:眠気、体重増加、集中力低下などの副作用により、治療の継続が困難になる場合がある。
- 治療コスト:特に新しい注射薬などは高額であり、経済的な負担が大きい。
これらの障壁が原因で、多くの片頭痛患者さんが最適な予防治療を受けられていない状況が続いています。
既存の片頭痛予防治療における制約と課題
近年登場したCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした治療法は、高い有効性を示し注目されています。しかし、この治療法には大きな障壁があります。
- 高額な費用:CGRP関連薬は非常に高価であり、経済的な負担が大きくなります。
- アクセス制限:ガイドラインにより従来の第一選択薬の効果が不十分であった場合に限定して使用することが推奨されています。そのため誰もが最初から使えるわけではなく、治療へのアクセスが制限されています。
β遮断薬、抗うつ薬、抗てんかん薬といった従来の片頭痛予防の第一選択薬は、長年使用されてきた実績があります。しかし、多くの患者さんにおいて以下のような課題があります。
- 効果が不十分:期待するほどの効果が得られないケースが少なくありません。
- 副作用による継続困難:眠気、体重増加、倦怠感などの副作用により、治療の継続自体が困難になる場合があります。

このような背景から、「高い有効性」と「良好な耐容性(副作用の少なさ)」を両立した、手頃な価格の新たな治療選択肢が強く求められています。次に紹介する「カンデサルタン」は、このニーズに応える可能性を秘めています。
カンデサルタンは片頭痛に有効か?研究結果と可能性
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)であるカンデサルタンは、高血圧治療薬として知られていますが、近年、片頭痛予防薬としての可能性に注目が集まっています。複数の臨床研究で、その有効性を示す有望な結果が報告されています。
- 2003年 Tronvikらによる研究:無作為化比較試験により、カンデサルタン16mgの投与が片頭痛の頻度を有意に減少させることが報告されました。
- 2014年 Stovnerらによる研究:カンデサルタンと従来から片頭痛予防薬として使用されているプロプラノロールを比較する大規模な試験(三重盲検クロスオーバー試験)が実施され、この研究でもカンデサルタン16mgの有効性が再確認され、片頭痛予防効果の科学的根拠が蓄積されました。
これらの先行研究によりカンデサルタンは片頭痛に悩む患者さんにとって新たな治療選択肢となる可能性が示されています。
カンデサルタンの実臨床における有効性と高い継続率
実臨床から得られたデータはカンデサルタンが慢性片頭痛患者に対して有効な治療選択肢であることを示しています。Messinaらによる後ろ向き研究では、カンデサルタンを服用した慢性片頭痛患者が高い治療継続率を示し、その臨床的有用性が確認されました。これは、患者さんが長期的に安心してカンデサルタンを使用できる証拠となります。
従来の片頭痛予防薬(β遮断薬やカルシウム拮抗薬など)で十分な効果が得られなかった治療抵抗性の症例に対しても、カンデサルタンは有効性を発揮することが実臨床データから明らかになっています。これは、新たな治療アプローチを模索する患者さんにとって大きな希望となります。
治療の成功には薬の有効性だけでなく、継続しやすいかどうかが重要です。Garcia-Azorinらによる「CandeSpartan研究」やSanchez-Rodriguezらによるコホート研究により、実臨床におけるカンデサルタンの忍容性の高さ(副作用の少なさ)が裏付けられました。これにより患者さんは日常生活への影響を最小限に抑えつつ、頭痛予防に取り組むことが可能です。
カンデサルタンの優位性:費用対効果と安全性
片頭痛の治療オプションが多様化する現代において、CGRP標的薬などの新しい治療法が注目を集めています。しかし、経済的負担、入手の容易さ、長期的な安全性は、多くの患者さんにとって以前として重大な課題です。
こうした背景の中、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)であるカンデサルタンは、片頭痛予防薬として費用対効果とアクセスの良さで優位性を示しています。
経済的負担
カンデサルタンはCGRP標的治療薬と比較して費用が大幅に低いため経済的負担は軽減され、長期的に治療を継続しやすいです。
確立された安全性
カンデサルタンは長年にわたり高血圧治療薬として使用されており、安全性プロファイルは十分に確立されています。
国際的な推奨
実際に複数の国際的な片頭痛治療ガイドラインにおいて、その有効性が認められ、予防薬として推奨されています。

カンデサルタンは既存の治療で満足されていない方や、長期的な片頭痛管理を目指す方にとって、考慮すべき有効な選択肢の一つと言えるでしょう。
カンデサルタンの片頭痛治療における国際的な推奨度とエビデンス
片頭痛の薬物治療に関するEFNSガイドラインでカンデサルタンの有用性を評価しています。
新しい片頭痛治療を臨床実践に統合するコンセンサスステートメントにおいて、カンデサルタンの使用を推奨しています。
片頭痛の予防的薬物治療に関するグローバル実践推奨において、カンデサルタンを推奨治療として位置づけています。
システマティックレビューとメタアナリシスに基づく最新の片頭痛予防ガイドラインでカンデサルタンが推奨治療の選択肢として含まれています。
カンデサルタンの片頭痛予防効果:無作為化比較試験(RCT)
試験デザインと方法
本研究は、片頭痛予防におけるカンデサルタンの有効性と安全性を検証するために実施されました。信頼性の高い科学的根拠を確立するため、厳格な無作為化、三重盲検、プラセボ対照比較試験という手法が採用されています。この試験デザインは、結果の偏りを最小限に抑え(バイアスの排除)、カンデサルタンの真の治療効果を客観的に評価することを可能にします。
- 研究デザイン:無作為化、三重盲検、プラセボ対照、平行群間比較試験
- 実施場所:ノルウェーおよびエストニア国内の複数医療機関
- 目的:カンデサルタンの片頭痛予防薬としての効果を検証する
参加者は以下の基準を全て満たしています。
- 年齢:18〜64歳の成人患者
- 症状:1ヶ月に2〜8回の反復性片頭痛がある方(前兆の有無は問わない)
- 治療期間:12週間
参加者は公平に以下の3つの治療群のいずれかに1:1:1の割合で無作為に割り当てられました。
- カンデサルタン16mg群
- カンデサルタン8mg群
- プラセボ(偽薬)群
試験結果の正確性を期すため、以下の条件に当てはまる場合は研究から除外されました。
- 他の降圧剤を使用中
- 過去に3種類以上の片頭痛予防治療歴がある
- 血圧値による除外基準なし
評価項目と盲検化
主要評価項目
ベースラインから治療開始後9〜12週の4週間あたりの片頭痛発作日数の平均値の変化を主要評価項目としました。
副次的評価項目
平均片頭痛日数、頭痛日数、頭痛強度、急性片頭痛治療薬使用日数、50%レスポンダー率、欠勤日数の変化を評価しました。
厳格な盲検化
参加者、施設スタッフ、試験統計担当者は全員、治療割付について盲検化され、バイアスを最小限に抑えた客観的評価が実施されました。
主要な参加者属性(ベースラインデータ)
参加者の多くは働き盛りの女性であり、片頭痛治療への関心が高い層であることがわかります。
- 総参加者数:457名
- 平均年齢:38.7歳
- 性別:女性が86%を占めた
- トリプタン製剤の使用率:89%が使用歴あり
参加者がどれほど深刻な片頭痛に悩まされていたかがわかるデータです。
- 4週間あたりの平均片頭痛日数:5.7回
- 4週間あたりの総頭痛日数:8.3回
また参加者の83%が「予防薬の使用歴なし」であり、15%が1種類、3%が2種類の予防薬を試していました。これは、既存の治療法だけではコントロールが難しい、あるいは予防薬未経験の片頭痛患者が多く参加したことを示唆しています。

おおよそ週に1回以上片頭痛発作があり、その他の頭痛も含めると週に2回以上頭痛がある片頭痛患者さんを対象としてカンデサルタンの予防効果を確認する試験ということになります。
カンデサルタンは片頭痛予防に効果あり!臨床データで示された有効性
治療開始後9〜12週目の時点で、カンデサルタン16mgを服用した群では、月間の片頭痛発作日数が平均で2.04日減少しました。これはプラセボ(偽薬)群の減少幅(0.82日)と比較して、統計的に極めて有意な差(群間差 -1.22日、p<0.0001)です。
カンデサルタンは片頭痛発作だけでなく、全頭痛日数(カンデサルタン群:-2.53日減 vs プラセボ群:-1.30日減)や、急性期治療薬であるトリプタンの使用日数(カンデサルタン群:-1.31日減 vs プラセボ群:-0.39日減)も有意に減少させることが確認されました。これにより、日々の生活の質の向上が期待できます。
特筆すべきは、治療によって「月あたりの片頭痛日数が50%以上減少した」被験者の割合(レスポンダー率)です。
- カンデサルタン16mg群:49%
- プラセボ群:28%
カンデサルタン群では約半数の方が劇的な効果を実感しており、プラセボ群と比較して有意な改善が認められました。
| プラセボ群 | カンデサルタン16mg群 | |
| 片頭痛日数の変化 | ー0.82日 | −2.04日 |
| 全頭痛日数の変化 | ー1.30日 | ー2.53日 |
| 50%以上の頭痛減少 | 28% | 49% |
カンデサルタン8mgと16mgで効果に大きな差はない
今回の試験ではカンデサルタン8mg群も16mg群とほぼ同等の治療効果を示しており、8mgでも十分な予防効果が期待できることが示されました。
最も多い副作用は「めまい」:カンデサルタン群で高頻度に確認
カンデサルタン群で最も多く報告された副作用は「めまい」でした。血圧を下げる薬であるため、血圧低下に伴うめまいは起こりやすい副作用の一つです。
| カンデサルタン16mg群 | カンデサルタン8mg群 | プラセボ群 | |
|---|---|---|---|
| めまいの発生率 | 30%(46/156人) | 28%(42/150人) | 13%(19/151人) |
カンデサルタン群ではプラセボ群(13%)と比較して有意にめまいの発生率が高かったものの、多くは軽度であり、治療の中止に至ったケースはカンデサルタン16mg群で2人、8mg群で1人と少数でした。
治療継続が困難になるほどの有害事象による試験中止率は、カンデサルタン群とプラセボ群で大きな差はありませんでした(16mg群で4人、8mg群で1人、プラセボ群で4人)。
また、重篤な有害事象(入院が必要など)もカンデサルタン16mg群で3%、8mg群で1%、プラセボ群で1%と、発生率は低く抑えられていました。
報告された重篤な有害事象のほとんどは、試験薬(カンデサルタン)との関連性がないと判断されています。唯一、カンデサルタン16mg群で発生した「脳震盪を伴う失神」は、薬物との関連が示唆されましたが、全体的に見ると安全性は高いと言えます。
副作用の自覚は少なく、治療への満足度は高い結果に
- カンデサルタン16mg群:78%
- カンデサルタン8mg群:83%
- プラセボ(偽薬)群:87%
多くの患者さんが、大きな副作用を感じることなく治療を継続できていたことが分かりました。そして、有効性に関する「非常に満足」または「満足」と回答した割合は、カンデサルタン群で約36%〜39%に達し、プラセボ群(15%)を大きく上回りました。

カンデサルタンは「めまい」という特徴的な副作用がありますが、適切に管理すれば重篤な問題に至るケースは稀という結果が示されました。
専門家による考察:片頭痛予防薬カンデサルタンの臨床データから見る日本の治療現場への示唆
上記に紹介したカンデサルタンを用いた片頭痛予防の臨床試験結果は有望でしたが、このデータを日本の標準的な治療環境にどのように適用すべきでしょうか。降圧剤としての標準用量や、既存薬・新規治療薬との比較から、専門的な視点で考察します。
降圧剤としての標準用量と、片頭痛治療における「16mg」のリスク
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、標準用量で約9mmHg程度の降圧効果が報告されており、これはベータ受容体拮抗薬(例:インデラル®)と同等の効果です。
注目すべきは、今回の試験で有効性が認められた「カンデサルタン16mg」という用量です。日本の高血圧治療で保険適応となるカンデサルタンの最大投与量が12mgであることを考えると、16mgという用量が非常に大きいことがわかります。
片頭痛は若い世代が多く、血圧の低い日本人女性などに対して16mgを適用した場合、より高頻度にめまいの副作用が出現することが予想されます。カンデサルタン8mg群の結果も有効であったことを踏まえ、日本人を対象とした用量調整とその場合の効果といったデータ収集が必須と考えられます。
既存薬との比較:めまい・血圧低下への注意喚起
既存の片頭痛予防薬であるインデラル®(プロプラノロール)では、血圧の低い患者さんで時折めまいが発生します。カンデサルタンも同様に血圧を下げる作用があるため、今後データが蓄積されても、血圧低下に伴うめまいという有害事象には引き続き注意が必要です。
試験報告では「8mg群の副作用は十分低頻度」と結論づけられていますが、この結果がそのまま日本人に当てはまるかは不明確であり、慎重な検討が求められます。
日本の医療現場における大きな課題:カンデサルタンの「保険適用外」問題
カンデサルタンが片頭痛予防に有効であることは喜ばしい事実ですが、日本の医療現場には大きな障壁があります。
カンデサルタンは、現状、日本国内において片頭痛に対する保険適応を有していません。 そのため、原則として「高血圧を併発している片頭痛患者さん」に対してのみ、保険診療で処方できるという問題があります。
しかし片頭痛患者さんは若い世代に多いため高血圧を合併している患者さんは少数です。
新薬登場時代の「選択肢の増加」と高額な新薬:費用対効果のジレンマ
近年、片頭痛治療は大きく進歩しており、CGRP関連抗体薬(エムガルティ®、アジョビ®など)やGepantといった「片頭痛のメカニズムに応じた治療薬」が登場し、高い効果を示しています。これらは保険適用(月4回以上の発作など条件あり)となりましたが、その分お値段も非常に高価です(3割負担で月額約13,500円〜)。
そのため、「月に10回頭痛があっても、トリプタン(特効薬)を飲めば1時間で治るから」と、高額な予防薬を選択しない患者さんが圧倒的に多いのが現状です。
安価な既存の予防薬だけでは効果不十分な片頭痛患者はまだ多く存在します。カンデサルタンのように、手頃な価格で提供できる治療薬の選択肢が増えることは、患者さんにとって非常に喜ばしいことであり、今後、日本でも片頭痛に対して保険適応を取得することを期待します。
今後の展望:効果が確認された安価な薬剤の普及に期待
安価な既存の予防薬(プロプラノロール、バルプロ酸、アミトリプチリンなど) だけでは効果不十分な片頭痛患者さんはまだ多く存在します。カンデサルタンのように、有効性が確認されているにもかかわらず保険適用がない「適応外薬」は複数存在します。これらが公知申請などを経て(厚生労働省の公知申請情報参照)、手頃な価格で提供できる治療薬の選択肢として今後広く使用可能となることは、多くの患者さんにとって非常に喜ばしいことです。

最後までお読みいただきありがとうございました。あなたの毎日が少しでも健やかでありますように。

