糖尿病性腎臓病の進行を遅らせるために、レニン-アンジオテンシン系阻害薬、ナトリウム-グルコース共輸送体-2(SGLT-2)阻害薬、非ステロイド性ミネラルコルチコイド(MR)拮抗薬の3つの薬剤が推奨されています。これら3剤の併用療法に関するデータは限られていましたが、併用療法の効果を評価した報告が行われましたので、糖尿病性腎臓病の進行抑制における新たな治療戦略について臨床的根拠に基づいて解説します。

辻堂脳神経・脊椎クリニック 院長
中川 祐
なかがわ ゆう
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院、済生会宇都宮病院、足利赤十字病院、日野市立病院にて勤務後、辻堂脳神経・脊椎クリニックを開院。 脳神経外科専門医・指導医 脳神経血管内治療専門医
糖尿病性腎臓病の治療における現状と課題
2型糖尿病と慢性腎臓病を合併すると心血管疾患と腎不全のリスクが著しく高いことが報告されています。そのため効果的な治療戦略の確立が必要です。
慢性腎臓病(CKD)は、数年にわたって徐々に進行する、進行性かつ不可逆的な腎機能の喪失と定義され、最終的には末期腎不全に至る可能性があります。慢性腎臓病(CKD)では併存疾患を有することが多く、糖尿病、高血圧、心不全を含む心血管疾患など様々な状態を併せ持ちます。2型糖尿病の最大40%でCKDを合併することが報告されています。
2型糖尿病では、慢性腎臓病(CKD)を合併すると重大な罹患率と死亡率の上昇をもたらします。CKDは2型糖尿病における末期腎不全の主要な原因であるだけでなく、心血管疾患(CVD)リスクも増加させ、CKD合併のない2型糖尿病患者さんと比較してCVD関連死リスクが3倍高くなることが報告されています。
現在では、糖尿病性腎臓病の進行抑制効果を有する4つの薬剤の使用が推奨されています
- レニン-アンジオテンシン系阻害薬
- ナトリウム-グルコース共輸送体-2(SGLT-2)阻害薬
- 非ステロイド性ミネラルコルチコイド(MR)拮抗薬
- グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬

糖尿病性腎臓病の進行を抑制するために上記の薬剤の併用療法に期待が寄せられており、以下のような報告がされています。
併用療法の科学的根拠
SGLT2阻害薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、それぞれ独立して心血管疾患リスクを低下させることが示されています。
両薬剤は慢性腎臓病の増悪リスクを抑制する効果を持ち、尿中アルブミン排泄を減少させます。
非ステロイド性ミネラルコルチコイド(MR)受容体拮抗薬であるフィネレノン(ケレンディア®)の臨床試験の二次解析で、SGLT2阻害薬にフィネレノンを追加で使用した場合でも尿中アルブミン/クレアチニン比の低下効果が変化しないことが示されました。

これらの知見は、フィネレノン(ケレンディア®)が尿中アルブミン/クレアチニン比および腎機能低下や心血管疾患の予防に対して相加的効果を有する可能性を強く示唆しています。しかし、レニン-アンジオテンシン系阻害薬とSGLT-2阻害薬、MR拮抗薬を同時に使用するデータは限られており、より詳細な検討が必要とされていました。
CONFIDENCE試験
これらの薬剤を併用した場合の短期的な効果を検討するために実施されたプラセボ対照無作為化試験です。CONFIDENCE試験(Combination Effect of Finerenone and Empagliflozin in Participants with Chronic Kidney Disease and Type 2 Diabetes Using a Urinary Albumin-Creatinine Ratio Endpoint)では、ケレンディア®単独、エンパグリフロジン単独、または両治療法の併用について二重盲検無作為化能動比較試験を行いました。
試験デザイン
二重盲検無作為化能動比較試験として設計され、3つの治療群を比較しました。
介入期間
180日間の治療期間を設定し、その後30日間の経過観察期間を設けました。
評価項目
180日間の治療期間を設定し、その後30日間の経過観察期間を設けました。
試験対象者の選定基準と評価項目
- HbA1c 11%未満
- eGFR 30〜90mL/min/1.73m2
- 慢性腎臓病で尿中アルブミン/クレアチニン比が100〜5000
- アンジオテンシン変換酵素またはアンジオテンシン受容体拮抗薬を服用中
- 主要有効性評価項目
ベースラインから180日後の尿中アルブミン/クレアチニン比の相対的変化量 - 副次有効性評価項目
試験終了後から30日後の尿中アルブミン/クレアチニン比の相対的変化量、ベースラインから試験終了30日後までの変化量
- 腎機能関連
eGFRのベースラインから30日後までの変化量と終了後の改善率、急性腎障害の発生 - 電解質異常
高カリウム血症の発生頻度、血清カリウム濃度のベースラインからの変化量 - その他の有害事象
症候性低血糖、ケトアシドーシス、重症低血糖、性器真菌症などの発生
試験参加者の背景特性
CONFIDENCE試験には合計800名の参加者が登録され、3つの治療群に無作為に割り付けられました。フィネレノン+エンパグリフロジンの併用療法群が269名、フィネレノン単独療法群が264名、エンパグリフロジン単独療法群が267名でした。
98.4%
ACE阻害薬/ARB使用率
ほぼすべての参加者がレニン-アンジオテンシン系阻害薬を投与されていました。
74.6%
スタチン使用率
597名がスタチンを使用しており、心血管疾患予防管理が行われていました。
39.6%
インスリン使用率
317名がインスリン療法を受けており、血糖コントロールが実施されていました。
22.8%
GLP-1 RA使用率
182名が GLP-1受容体作動薬を使用していました。
- 腎機能
平均eGFRは54.2±17.1mL/min/1.73m2 - 尿中アルブミン
尿中アルブミン/クレアチニン比の中央値は579 - 血糖コントロール
平均HbA1cは7.3±1.2%
主要評価項目 尿中アルブミン/クレアチニン比低下

併用療法群
フィネレノン+エンパグリフロジン群では52%低下しました。

フィネレノン群
フィネレノン群では32%低下しました。

エンパグリフロジン群
エンパグリフロジン群では29%低下しました。
主要評価項目である180日後の尿中アルブミン/クレアチニン比のベースラインからの変化率は、各治療群で有意な差が認められました。
- 併用療法群はフィネレノン単独群よりもアルブミン/クレアチニン比が29%低下(95%信頼区間, 0.61-0.82)しました。
- 併用療法群はエンパグリフロジン単独群よりもアルブミン/クレアチニン比が32%低下(95%信頼区間, 0.59-0.79)しました。
この結果は併用療法群の優越性を示すもので、臨床的にも重要な意味を持ちます。
併用療法群での尿中アルブミン/クレアチニン比低下率
- 30日後 約30%低下
- 90日後 約40%低下
- 180日後 52%低下


併用療法群では14日後に0.27mmol/L上昇し、フィネレノン群では0.19mmol/L上昇しました。一方、エンパグリフロジン群では有意な変化は認められませんでした。
重要な知見
血清カリウム値の上昇は併用療法とフィネレノン単独療法群で同程度でしたが、高カリウム血症(血清カリウム値が5.5mmol/L以上)の頻度は、併用療法の方が約15〜20%低い結果となりました。これはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を投与されていた人に対するSGLT2阻害薬による重症高カリウム血症のリスク減少を示した過去のメタアナリシスと一致しました。

eGFRは治療群間で差が認められ、併用療法群で最も大きく低下しました。ただし初期の低下後は安定する傾向が観察されました。

併用療法群で最も強い血圧低下効果が認められました。併用群では開始後30日で収縮期血圧がベースラインから7.4mmHg低下しました。
重要な知見
併用療法群では単剤療法群と比較して有意な血圧低下が認められました。また症候性低血圧の頻度は低く、併用療法は効果的かつ安全な血圧管理を実現できることを示しました。
安全性評価の結果
治療開始後30日時点での30%以上のeGFR低下
- 併用療法群 6.3%
- フィネレノン群 3.8%
- エンパグリフロジン群 1.1%
ただし初期のeGFRの低下後は安定し、急性腎障害の頻度は1.9%と低めでした。
高カリウム血症による治療中止
- 併用療法群 1人
- フィネレノン群 1人
- エンパグリフロジン群 1人
高カリウム血症の頻度は予想よりも低い結果となりました。

- 併用療法群 7.1%
- フィネレノン群 6.1%
- エンパグリフロジン群 6.4%
治療群間で大きな差は認められませんでした
- 急性腎障害は併用療法群で5人、フィネレノン群で3人
- 症候性低血圧は併用療法群で3人
- 性器真菌症は併用療法群とエンパグリフロジン群で各4人
- 尿毒症性腎盂腎炎は併用療法群とエンパグリフロジン群で各1人
障害関連事象は少なく、治療群間で有意な差は認めませんでした。
全体として併用療法は忍容性が高く、安全に使用できることが示されました。
CONFIDENCE試験の臨床的意義
CONFIDENCE試験で、併用療養群が他の治療群と比較して有意に低下を示した6ヵ月間の尿中アルブミン/クレアチニン比の変化は、慢性腎臓病の進行に対する有効な指標です。
尿中アルブミン/クレアチニン比の低下は腎臓および心血管における有害事象の発生率が低下する指標となることが報告されています。
臨床試験のメタアナリシスにより尿中アルブミン/クレアチニン比が30%減少するごとに、末期腎臓病、血清クレアチニン濃度の倍増、またはeGFRの15ml/minute/1.73m²低下からなる複合腎臓エンドポイントが27%減少することが示されています。

つまり尿中アルブミン/クレアチニン比が低下すると腎機能の増悪を予防できるということであり、併用療法を行った方が慢性腎臓病の進行リスクを低下させることが推測されます。
血清カリウム値の上昇は併用療法とフィネレノン単独療法で同程度でありましたが、高カリウム血症の頻度は併用療法群の方が約15〜20%低い結果でした。これはミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬を投与されている患者さんにSGLT-2阻害薬を追加投与した場合のランダム化比較試験のメタアナリシスの所見と一致しています。
実臨床への応用において
尿中アルブミン/クレアチニン比を測定し、治療効果の調整や追加治療の必要性を判断し、段階的に薬剤を追加していく従来型のアプローチと比較して、初回からSGLT-2阻害薬とミネラルコルチコイド(MR)拮抗薬の併用療法を行った方がより慢性腎臓病の進行を抑制したり、心血管疾患リスクを低下させる可能性が高いことがCONFIDENCE試験で示されました。
段階的に薬剤を追加する場合と比較して、併用療法ではより注意を要する項目が複数認められました。
- eGFRの低下
- 血清カリウム値の上昇
- 血圧の低下
特に上記3つには注意をする必要があり、これらの変化の大部分は開始後14日以内には認められました。また、その後はおおよそ変化しなかったため、特に治療開始の2週間に注意を要することが示されました。
またCONFIDENCE試験では追跡期間が短いため、最も重要である慢性腎臓病の増悪や心血管疾患の発生を比較出来ていない点も理解しておく必要があります。

アルブミン尿を有する糖尿病患者さんにおけるSGLT-2阻害薬とミネラルコルチコイド(MR)拮抗薬の併用治療の必要性が補強される結果となりました。ただし、初回からの併用療法が臨床転機まで改善させるかについては、長期間の試験で確認されるべきでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。あなたの毎日が少しでも健やかでありますように。

