片頭痛前兆は頭痛発作前に出現する一時的な神経症状です。神経の症状としては視覚症状が最も一般的ですが、感覚症状、言語症状、運動症状など多彩な症状を呈することがあります。一定時間が経過すると前兆の症状は完全に消失します。ここでは医学的エビデンスに基づいた片頭痛前兆の特徴、種類、メカニズムについて最新情報をご紹介します。

辻堂脳神経・脊椎クリニック 院長
中川 祐
なかがわ ゆう
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院、済生会宇都宮病院、足利赤十字病院、日野市立病院にて勤務後、辻堂脳神経・脊椎クリニックを開院。 脳神経外科専門医・指導医 脳神経血管内治療専門医
片頭痛前兆の基本的特徴
時間
片頭痛前兆は5分以上かけて徐々に出現、拡大し、5〜60分間持続します。頭痛の発症前、発症中または発症後に出現することがあり、頭痛を伴わない場合もあります。
症状
視覚症状、感覚症状、言語症状、運動症状、脳幹症状、網膜症状のいずれかを含みます。これらは完全に可逆性であり、時間の経過とともに自然に消失します。
陽性・陰性症状
前兆には陽性症状(実際にはないものが出現する)と陰性症状(感覚が消失する)があり、両方が生じることもあります。
頭痛
前兆に伴って、あるいは前兆症状出現後60分以内に頭痛が起こることが多いです。ただし頭痛を伴わず前兆のみで終わることもあります。

これだけ読んでも分かりにくいので、前兆の中で最も頻度の高い視覚性前兆の特徴を見てみましょう
視覚性前兆の特徴
視覚性前兆はジグザグ形の閃光で縁取られたレンズ状の中に一部見えない部分(暗点)が現れ、閃輝暗点と呼ばれます。実際にないはずの閃光が見える症状が陽性症状、暗点の見えない症状が陰性症状です。

- 数分かけて徐々に発症します
- 5〜60分持続します
- 範囲は片側であることが多いです
- 陽性症状と陰性症状の両方が現れます
- 色がついたり回転したりすることは稀です

上記の症状と異なる場合は二次性頭痛の可能性も検討する必要があります。
視覚性前兆の鑑別診断
片頭痛の視覚性前兆と似たような症状を呈する疾患として以下のようのものがあります。
疾患 | 発症 | 持続時間 | 範囲 | 症状の特徴 |
---|---|---|---|---|
片頭痛 | 数分かけて徐々に | 5〜60分 | 片側 | 陽性・陰性症状両方 |
てんかん | 急に | 数秒〜数分以上 | 片側 | 陽性症状 色付き・回転 |
一過性脳虚血発作 | 1分以内 | 1分〜24時間 | 主に片側 | 陰性症状がほとんど |
片頭痛の予兆 | 徐々に | 数時間〜48時間 | 両側性 | 陰性症状 光過敏 |
前失神 | 急に | 1分程度 | 両側性 | 視野暗化 水玉や光点 |
片頭痛前兆の種類と頻度
ジグザク形の閃光で縁取られたレンズのようなものが現れ、徐々に拡大します。視野の一部が見えなくなることもあります。
片側の顔や手足にチクチクとした症状が出現し、次第に拡大します。
言葉が出にくくなったり、言葉が理解しづらくなったりします。
構音障害、めまい、耳鳴りなどの症状が現れます。
視覚性前兆のみを経験する患者さんが全体の約60%を占めます。
複数の前兆症状が起こることも一般的で、患者さんの約35%が2つ以上の前兆症状を経験します。

前兆症状は患者さんの症状に基づいています。そのため診察や検査では分からず、患者さん自身にしか分からない主観的な症状であることがほとんどです。
特殊な前兆を伴う片頭痛
構音障害、回転性めまい、耳鳴り、難聴、複視、運動失調、意識レベル低下のうち2つ以上の症状を認める前兆です。脳幹部の機能障害を反映していると考えられています。
運動麻痺の前兆を特徴とします。片麻痺は比較的長く続き、何週間も持続することがあります。意識障害や錯乱、発熱などを伴うことがあり、てんかんや脳炎との鑑別が必要です。
片眼の陽性または陰性視覚症状を特徴とします。閃輝暗点などが片方の眼だけに現れ、両眼で見ても症状は片眼にのみ限局します。一過性黒内症との鑑別が重要です。
1つまたは複数の前兆が1週間以上持続するものです。両側性であることが多く、数週間から数ヶ月持続する場合があります。MRI検査で脳梗塞を認めないか確認が必要です。
今までの頭痛発作と同様ですが、前兆症状が60分以上持続し、MRI検査で脳梗塞を認めるものです。若年性脳梗塞の原因の一つとして有名です。
3日以上にわたり、1日3つ以上の前兆を認めます。可逆性脳血管攣縮症候群や可逆性後頭葉白質脳症や動脈解離などの可能性を除外する必要がある症状です。
不思議の国のアリス症候群:Alice in Wonderland syndrome
物体の大きさや量、形、位置が実物と異なって見える視覚の歪み(変視症)を主症状とする特異な症候群です。現実感の喪失や自分の身体や精神から遊離している感覚なども伴うことがあります。
ルイス・キャロルの有名な小説「不思議の国のアリス」で描かれた体験との類似性にちなんで名づけられた、かなり独特な症状です。
前兆のある片頭痛で認められることがある症状で、成人よりも小児方が多く見られます。変視症は加齢黄斑変性症などの網膜疾患や特発性頭蓋内圧亢進症など他の疾患でも認められます。

片頭痛前兆と皮質拡延性抑制
皮質拡延性抑制(Cortical spreading depression: CSD)とは?
皮質拡延性抑制は片頭痛前兆の原因と考えられている現象で、脳の神経細胞(ニューロン)とそれを支持する神経膠細胞(グリア)に起こります。
”大脳皮質でのニューロンとグリアの脱分極が同心円状に拡延し、その後しばらく電気活動が抑制される現象で、片頭痛前兆の原因と考えられている。“
つまり水面に落ちた水滴から波が円状に広がるように、脳細胞が次々と興奮する波が伝わり、その後に脳細胞の活動が抑制されるという現象です。これまでの研究から前兆症状の原因と考えられています。
皮質拡延性抑制のメカニズム
脳が血液中の多数の物質に暴露されることから守られるための構造である『血液脳関門』が何らかの刺激により機能低下を起こします。これにより血液中のマグネシウムイオンに神経細胞が暴露され、神経細胞に過剰興奮が起こります。
脳細胞の過剰興奮後に脳細胞に活動抑制が起こります(脳細胞が活動停止を起こします)。この活動抑制は約3mm/分の速度で周囲へ伝播します。
皮質拡延性抑制により三叉神経を介してCGRPが放出され、動脈が拡張し血流が増加したり、頭痛を起こすと考えられています。

皮質拡延性抑制が片頭痛を誘発するのか?
皮質拡延性抑制は片頭痛前兆の基礎となる現象であり、片頭痛を誘発すると考えられていました。しかし最近では片頭痛発作に随伴する症状の一つに過ぎないという意見もあります。
片頭痛前兆の約半数が頭痛の開始後に現れることが報告されています。このことから前兆の開始が頭痛の前である例は半数程度しかないことがわかります。頭痛の前に出現していないことから片頭痛の原因ではなく、一つの症状と考えられます。
前兆のない片頭痛は頭痛発作の前から視床下部(脳にある自律神経や内分泌を調節する中枢)が活性化します。そのため視床下部は前兆のない片頭痛を発生させる『generator』として機能していると考えられています。
前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛では視床下部の活動性変化に違いがないことが示されています。
視床下部から発生した片頭痛発作が皮質拡延性抑制を起こすと前兆のある片頭痛が起こり、皮質拡延性抑制を起こさなければ前兆のない片頭痛となると考えられます。
当院は毎日頭痛専門外来をおこなっております。日曜日も診療を行なっておりますので、お気軽にご相談ください。