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メタボリックシンドロームと若年性認知症の関連性|認知症外来 藤沢・辻堂・茅ヶ崎 辻堂脳神経・脊椎クリニック

メタボリックシンドロームは晩発性認知症の一因として認識されていましたが、若年性認知症に対する影響はこれまで不明でした。韓国から報告された大規模な観察研究の結果からメタボリックシンドロームが若年性認知症のリスクを上昇させることが明らかとなりました。ここではこの報告を元に、メタボリックシンドロームと認知症との関連性について詳しく説明していきます。

この記事の著者

辻堂脳神経・脊椎クリニック 院長

中川 祐

なかがわ ゆう

プロフィール

慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院、済生会宇都宮病院、足利赤十字病院、日野市立病院にて勤務後、辻堂脳神経・脊椎クリニックを開院。 脳神経外科専門医・指導医 脳神経血管内治療専門医

メタボリックシンドロームとは?

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドローム(MetS)は複数の代謝異常が同時に存在する状態を指し、これらの代謝異常が重なることで、心血管疾患や脳卒中のリスクが著しく高まることが多くの研究で示されています。メタボリックシンドロームは現代社会において急増しており、生活習慣病の重要な予防対象となっています。

国や地域により診断基準はやや異なります。

Alberti KG, et al. Harmonizing the metabolic syndrome: a joint interim statement of the international diabetes federation task force on epidemiology and prevention; national heart, lung, and blood institute; American heart association; world heart federation; international atherosclerosis society; and international association for the study of obesity. Circulation. 2009;120(16):1640-1645.

日本の診断基準

ウエスト周囲径

男性85cm以上、女性90cm以上が必須条件となります。この腹部肥満は内臓脂肪の蓄積を反映する重要な指標です。

腹部肥満があり、かつ以下の3項目のうちの2つを満たす場合にメタボリックシンドロームと診断されます。

脂質異常

高トリグリセリド(中性脂肪)血症(150mg/dL以上)または低HDLコレステロール血症(40mg/dL以下)のいずれかが該当します。

血圧高値

収縮期血圧が130mmHg以上または拡張期血圧が85mmHg以上の状態を指します。

高血糖

空腹時血糖値が110mg/dL以上の状態です。

メタボリックシンドロームは認知症を起こす?

認知症を起こす!

メタボリックシンドローム(MetS)は高齢者における軽度認知障害の発生率を46%増加させることや、その後の認知症への進行を4.25倍起こしやすくしたとの報告があります。

Ng TP, Feng L, Nyunt MSZ, et al. Metabolic syndrome and the risk of mild cognitive impairment and progression to dementia: follow-up of the Singapore longitudinal ageing study cohort. JAMA Neurol. 2016;73(4):456-463.

認知症と関連しない!

メタボリックシンドロームと認知症およびアルツハイマー型認知症の発症との間に有意な関連は認められなかったが、血管性認知症は増加させたとの報告があります。

Atti AR, Valente S, Iodice A, et al. Metabolic syndrome, mild cognitive impairment, and dementia: a meta-analysis of longitudinal studies. Am J Geriatr Psychiatry. 2019;27(6):625-637.

中川 院長
中川 院長

メタボリックシンドロームと認知症との関係は、様々な研究においてこれまで相反する結果が報告されています。

若年性認知症(Young-Onset Dementia:YOD)とメタボリックシンドローム

若年性認知症とは?

若年性認知症(Young-Onset Dementia:YOD)とは一般的に65歳未満で発症する認知症を指します。世界的な有病率は30歳から64歳の人口10万人あたり約119人と報告されています。高齢者に多い65歳以降に発症する晩発性認知症(Late-Onset Dementia:LOD)とは異なり、若年性認知症は独自のリスク要因や臨床的特徴を持つことが明らかになってきています。そのため若年性認知症に特化した予防戦略や治療法の開発が求められています。

Rossor MN, et al. The diagnosis of young-onset dementia. Lancet Neurol. 2010;9(8):793-806.

大規模研究が明らかにしたメタボリックシンドロームと若年性認知症の関連

今回の大規模全国コホート研究では、約200万人の参加者を平均7.8年間追跡調査した結果、メタボリックシンドロームと若年性認知症の間に明確な関連が見出されました。

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若年性認知症増加

年齢や性別など認知症発症に影響する交絡因子調整後もメタボリックシンドロームは若年性認知症の発症を24%増加させました(調整ハザード比 1.24、95%信頼区間1.19-1.30)。.

19.6

アルツハイマー型認知症増加

メタボリックシンドロームを有する人は若年性アルツハイマー型認知症のリスクが19.6%増加(調整ハザード比1.19、95%信頼区間 1.13-1.27)しました。

37.1

血管性認知症増加

メタボリックシンドロームを有する人は血管性認知症のリスクが37.1%増加(調整ハザード比1.37、95%信頼区間 1.25-1.50)しました。

メタボリックシンドロームと若年性認知症発症のKM曲線

Lee J-Y et al. Association between metabolic syndrome and young-onset dementia: A nationwide population-based study. Neurology 2025 May 27; 104:e213599.

メタボリックシンドロームの構成要素との関係

上記の研究結果ではメタボリックシンドロームの診断基準に含まれる、腹囲、血圧、血糖値、トリグリセリド(中性脂肪)、HDLコレステロールの全て構成要素が若年性認知症のリスク増加と関連している結果となりました。特筆すべきは、これらの構成要素の数が増えるほど若年性認知症のリスクが段階的に高まることです。

  • 構成要素1つ 20%増加
  • 構成要素2つ 41%増加
  • 構成要素3つ 44%増加
  • 構成要素4つ 60%増加
  • 構成要素5つ 70%増加

メタボリックシンドロームの診断基準(3つ以上の構成要素)を満たさない場合でも若年性認知症のリスクが増加することが認められました。

メタボリックシンドロームの5つの構成要素にすべて該当する人は、構成要素がない人と比較して若年性認知症のリスクが約70%も高いことが示されました。

中川 院長
中川 院長

特に血圧上昇が最も強い関連を示し、次いで空腹時血糖上昇、トリグリセライド上昇の順でした。これらの結果から、それぞれ1つ1つの代謝異常に対処することが認知症予防において重要であると考えられます。

サブグループ(リスク要因)別の若年性認知症への影響

性別による影響

男性の若年性認知症リスクが15%増加
男性

メタボリックシンドロームを持つ男性は、全ての若年性認知症のリスクが15%増加しました(調整ハザード比 1.15、95%信頼区間 1.09-1.23)。

  • アルツハイマー型:12%増加
  • 血管性認知症:21%増加
女性の若年性認知症リスクが34%増加
女性

メタボリックシンドロームを持つ女性は、全ての若年性認知症のリスクが34%増加しました(調整ハザード比 1.34、95%信頼区間 1.26-1.43)。

  • アルツハイマー型:26%増加
  • 血管性認知症:70%増加

女性は男性よりも代謝症候群による若年性認知症リスクの増加が大きく、特に血管性認知症において顕著な差が認められました。

中川 院長
中川 院長

この結果は、女性ホルモンの変化や閉経後の代謝変化が認知機能に与える影響の可能性を示唆しており、女性特有の予防戦略の必要性を考える必要があることを意味していると思われます。

肥満による影響

メタボリックシンドロームの診断基準に腹囲が含まれますが、BMIは含まれません。そのためメタボリックシンドロームと診断される方々の中に、BMI25以上の肥満の方と25未満の非肥満の方がいます。

肥満者のリスクが16%増加
肥満者の若年性認知症リスク増加

BMI25以上の肥満があるメタボリックシンドロームの方では若年性認知症のリスクが16%増加しました。

調整ハザード比1.16、95%信頼区間 1.09-1.22

非肥満者の若年性認知症リスクが16%増加
非肥満者の若年性認知症リスク増加

BMI25未満の非肥満のメタボリックシンドロームの方では若年性認知症のリスクが35%増加しました。

調整ハザード比1.35、95%信頼区間 1.27-1.44

興味深いことに非肥満でメタボリックシンドロームの方が、肥満でメタボリックシンドロームよりも若年性認知症のリスクが高いことが示されました。

中川 院長
中川 院長

この結果から、肥満自体よりも代謝障害が認知機能低下の主な要因であることが疑われます。見た目は痩せていても代謝異常がある「隠れメタボ」に注意が必要です。

年齢による影響

若年層ほどリスクが高い

メタボリックシンドロームを有する40代(40〜49歳)は、50代(50〜59歳)と比較して若年性認知症のリスクがより高いという傾向が示されています。これは、代謝異常への曝露期間が長いほど、脳への悪影響が蓄積すると考えられるからです。

中川 院長
中川 院長

このことは、より若年者からのメタボリックシンドローム予防が重要であることを示しています。40代以前からの健康管理が将来の認知症リスク低減に大きく貢献する可能性があります。

うつ病とメタボリックシンドロームの危険な相互作用!?

うつ病の人においてメタボリックシンドロームが若年性認知症に与える影響が特に顕著であることが明らかになりました。これは、代謝的要因と精神衛生的要因の間に相乗効果がある可能性を示唆しています。

中年女性を対象とした別の大規模調査でも、うつ病の女性はうつ病でない女性と比較して若年性認知症のリスクが有意に高く、閉経前女性では2.67倍、閉経後女性では2.50倍でした。

認知症の高齢女性
中川 院長
中川 院長

メタボリックシンドロームの生理的ストレスがうつ病に関連する脆弱性を増幅させる可能性があると考えられます。

メタボリックシンドロームと認知症サブタイプの関連性

アルツハイマー型認知症

メタボリックシンドロームはアルツハイマー型認知症のリスクを19.6%増加させました(調整ハザード比1.196、95%信頼区間 1.13-1.27)。

血管性認知症

メタボリックシンドロームは血管性若年性認知症のリスクを37.1%増加させました(調整ハザード比1.371、95%信頼区間 1.25-1.50)。

メタボリックシンドロームの各要素が認知症に与える影響

高血糖

高血糖は若年性アルツハイマー型認知症のリスクに最も大きく寄与する因子です。インスリン抵抗性と高血糖は、酸化ストレスを増加させ、アミロイドβプラークの蓄積やタウのリン酸化を促進し、神経変性過程を加速させる可能性があります。

高血圧

高血圧は若年性の血管性認知症の発症に最も大きく寄与する因子です。慢性高血圧は脳血管の構造的・機能的変化を引き起こし、小血管障害、白質病変、脳卒中リスクの上昇をもたらします。これらはいずれも血管性認知症発症の重要な要因です。

脂質異常

血管内皮機能障害や動脈硬化を促進し、脳血流を低下させることで認知機能に影響を与えます。特に高トリグリセリド(中性脂肪)血症と低HDLコレステロール血症の組み合わせは、脳血管障害のリスクを高めます。

まとめ

研究結果
  • メタボリックシンドロームにより8年間の追跡調査により、若年性認知症が24%増加することが示されました
  • 肥満のないメタボリックシンドローム群で35%、肥満のあるメタボリックシンドローム群で16%、若年性認知症が増加しました
  • メタボリックシンドロームにより若年性アルツハイマー病が男性で12%、女性で26%増加しました
  • メタボリックシンドロームにより血管性認知症が男性で21%、女性で70%増加しました。

メタボリックシンドロームとその個々の構成要素が若年性認知症の有意な増加と関連することが示されました。
生活習慣により修正可能なメタボリックシンドロームの改善に取り組むことで認知症を予防できることが改めて示されました。これらは認知症の症状が出現する何十年も前からメタボリックシンドロームを改善する重要性を物語っています。

中川 院長
中川 院長

最後までお読みいただきありがとうございました。あなたの毎日が少しでも健やかでありますように。

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